初めてのマハレで「サル」を追う清家 多慧
私は2018 年9 〜 10 月に初めてのマハレでの調査を行ってきました。マハレでの私の調査対象はチンパンジーではなく、アカオザル(マハレのサルたち第2 回参照)という樹上で生活をするサルです。アカオザルは、マハレにおいては生息密度も高く、そこら中にいるのですが、実際に追跡し詳しく行動を観察しようとすると少し厄介です。 写真1 少し慣れてくると、我々に対して堂々と警戒声を発してくる。 コツは警戒声が聞こえたら、むやみに動かないことです。立ち止まり、どこにサルがいるのか、群れがどのように広がっているのかをできる限り把握します。ここでも頼りになるのは彼らの声と移動の音です。姿はなかなか見えないのですが、観察に慣れてくると、声のする茂みの中からこちらをじっと見つめて警戒している姿を見つけることが出来ます。この間、警戒声はしばらく続きますが、徐々に間隔が長くなり頻度が下がってきます。それと並行して、茂みにじっと身を隠していたサルたちがガサガサと動き始めます。警戒することに疲れてくるのでしょうか……?聞こえる声が「ピャッ」という高くて鋭い警戒声から「ゴゴッ、ググッ」というような低くて落ち着いた小さな音声に変わってきます。時々「キュルルルル」という鳥のさえずりのようなかわいらしい声も聞こえてくるようになります。このように、群れ全体が我々の接近に警戒して緊張していた状態から、落ち着きを取り戻した状態になると、群れは徐々に移動を再開し始めるので、じっと彼らの声や移動の音に耳を澄ませ、群れが移動していく方向をつかみます。群れがある程度移動したら、我々もできるだけ彼らを刺激しないように群れの移動方向についていきます。ある程度まで近づくと再び警戒されて……とひたすらこれを繰り返します。 群れに近づくときには、彼らにとっての「警戒はするけれども、まだ我慢できる距離」というのを保つことが重要です。ずかずかと近づきすぎると、散り散りに逃げられてしまい、群れ全体としての移動方向が分からずに見失ってしまいます。しかも逃げていくサルを追いかけまわすと、馴らすどころか彼らを怖がらせてしまうことにつながりかねません。このような失敗を繰り返しながらも徐々に距離感が分かるようになると、少しずつ彼らの姿をとらえられる時間も長くなってきます。彼らの方も徐々に馴れてきて、茂みから出て姿を見せてくれるようになってきます。 写真2 グルーミングをしている。グルーミングされているのはコドモで、こちらが気になる様子。 今回の調査では、3 週間ほどこのような群れ追跡を行ったのですが、調査の後半にはメス同士がグルーミングをする姿や、コドモたちの遊ぶ姿を観察することが出来るようになりました。このような個体間の親和的なインタラクションが見られるということは、我々に対する警戒心が徐々に解けてきたという証拠です!特にコドモ達は我々に興味があるらしく、茂みに隠れつつもちょこちょこと出てきてこちらの様子をうかがうような行動がオトナたちよりもよくみられるようになりました。 私は、今回の調査からアカオザルを人付けできるという手ごたえを感じています。人付けができれば、様々な場面における彼らの行動をもっと詳細に観察できるようになるでしょう。中でも、彼らが他の近縁な霊長類や、捕食者と遭遇した際にどのような行動を示すのか、ということに私は興味を持っています。次は今年の9 月から1 年間調査を行う予定ですが、これから彼らがどのような生きざまを見せてくれるのか、大変楽しみにしています。 最後に余談ですが、私は今回の渡航中はお腹を壊したりすることもなく、とても元気に毎日を過ごしていました。元気に帰ってきた私を見て両親が安心したのもつかの間、帰国の翌日に発熱、マラリアを発症してしまいました。マハレを出た後、調査も終わり油断していて街で蚊に噛まれたのが原因でしょう。最後まで気を抜いてはいけないということを思い知った初渡航となりました。 (せいけ たえ・京都大学) 第33号目次に戻る | 次の記事へ |