第13回 イロンボから生えるキノコ―マメザヤタケの仲間

中村 美知夫


 マハレに行って最初の雨季だったでしょうか。
 連日の雨でじめじめとした観察路を歩いていると、イロンボの実が丸のまま地面に落ちていました。朽ちかけて黒っぽくなっていましたが、てっぺんの部分から何かひょろ長い黒いものが数本生えています。ちょうど実の中の種子が発芽して芽が伸びているような感じです。しかし、新芽が黒いというのも妙なので、よく見てみると、それは芽ではなくてどうやらキノコのようでした。
 グニャグニャした棒状で、私たちが普通にイメージするキノコとはちょっと感じが違います。例によって愛用の『日本のキノコ』で調べてみると、マメザヤタケの含まれるXylaria 属のキノコに似ている感じです。ただ、こういう不規則な形のキノコはいったいどこで見分ければいいのか分かりにくく、正直私にはどの種なのか全く分かりません。



写真1 イロンボから生えていたものと(たぶん)同じキノコ―ここでは倒木から生えている



 これを「イロンボから生えるキノコ」として私が覚えているのは、冒頭で述べた時の印象が強かったからですが、実際にはこのキノコ、けっしてイロンボからしか生えないわけではありません。気がついてみると、雨季には枯れ葉や倒木など至る所に生えているのを目にします。植物質のものが朽ちかけて、十分な湿り気を持てばきっと何にでも生えるのでしょう。
 さて、このイロンボという果実、マハレのチンパンジーたちにとっては最も重要な食べ物です。ソフトボールくらいの大きさになるこの果実は7 〜 8 ミリくらいの皮に覆われていますが、チンパンジーたちは歯と手で器用にこの皮ごと半分に割って、中の黄色い果肉を丸呑みします。



写真2 イロンボの果実。



 シーズンになると観察路のあちらこちらにチンパンジーが捨てた半球状のイロンボの皮が落ちています。この皮は、次第に黒っぽくなっていきますが、おそらく2 〜 3 か月くらいの間は形を保っています。そうして朽ちかけてくると、イロンボの皮からもキノコが生えてきます。チンパンジーが食い散らかしたイロンボの皮も、こうしてキノコが育つ苗床となり、最終的には土へと戻っていくわけです。



写真3 地面に点々と落ちたイロンボの皮―新旧のものが入り混じっている。



 イロンボから生えている写真が見つからないので、イロンボの写真とこのキノコの写真をそれぞれ載せておきました。イロンボからこのキノコが生えている姿を想像してみて下さい。

(なかむら みちお・京都大学)



参考文献
今関六也・大谷吉雄・本郷次雄(編)2011. 『日本のキノコ―増補改訂版』山と渓谷社


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