第24回 ツチブタ

五百部 裕


 ツチブタ(学名はOrycteropus afer)は、ツチブタ目(管歯目)ツチブタ科ツチブタ属の動物です。ツチブタはツチブタ目に属する唯一の現生種であり、このように現生の動物が1 種のみなのは、現生の哺乳類ではツチブタ目だけです。ツチブタは英語でAardvark と言いますが、これはオランダ語のAarde(大地、土)とVarken(ブタ)が語源と言われており、それを直訳して日本語では「ツチブタ」と呼ばれています。「ブタ」という名前がついていますが、家畜のブタとは系統的にまったく異なる動物です。ツチブタはアフリカトガリネズミ目(Afrosoricida)やハネジネズミ目(Macroscelidea)と近縁だと考えられており、この三つの目でアフリカ食虫類(Afroinsectiphilia)と呼ばれるグループを構成しています。さらにアフリカ食虫類は、ゾウやハイラックス、ジュゴンやマナティーといった哺乳類とともにアフリカ獣上目(Afrotheria)を構成し、北方真獣類(Boreoeutheria)に属する霊長類や食肉類、有蹄類などとは系統的に全く違ったグループに属しています。



写真 マハレで撮影されたツチブタ(撮影 仲澤伸子)



 ツチブタは、湿潤な熱帯低地林からサバンナなどの乾燥した環境まで、サハラ砂漠以南のほとんどの地域に生息しています。全長は100 〜 160 cm、体重は40 〜 80 kg 程度の中大型の哺乳類です。頭は比較的小さく、大きな耳と長い口吻を持ち、尾が長いのが特徴です。地域による色の変異は大きいのですが、おおよそ淡灰色や淡黄色といった体毛で全身を覆われています。属名の「Orycteropus」はギリシャ語の「oruketr」と「pous」が語源で、英語に直訳すると「digging foot」となります。前肢に4 本、後肢に5 本の指を持っていますが、この名前の通り、それぞれの指に穴を掘るのに適した鋭い爪を持っています。そしてこの爪を活かして、行動圏内には避難場所などになるたくさんの巣穴を掘り、昼間はこの巣穴で過ごす夜行性で単独性の動物です。また門歯(前歯)と犬歯を持たず、セメント質で覆われた歯根のない臼歯を、小臼歯として上下に4 〜 8 本ずつ、大臼歯として上下に6 本ずつ持っていますが、この歯の特徴から「管歯目」という名前がつけられました。嗅覚や聴覚を頼りに主食となるアリやシロアリを探し、おもに前肢でアリ塚を破壊したり地面を掘り返したりして、長い舌を利用しながらこれらの獲物を食べて生活しています。IUCN(国際自然保護連合)のレッドリストではLeast concern に分類されており、絶滅の可能性は低いと考えられています。
 マハレでは、夜行性なのでツチブタを直接観察するのはたいへん難しいのですが、ツチブタの死体に対するチンパンジーの反応がこれまでに2 例報告されています(Hosaka et al. 2014, PAN vol. 21 No.2)。いずれの事例でも、一部の個体が近づいて凝視したり臭いを嗅いだりという探索行動を示し、また新鮮な死体の場合にはより激しい反応が観察されました。そして2例ともチンパンジーがツチブタの死体を食べるそぶりは見せなかったそうです。これは、チンパンジーがツチブタを獲物として認識していないためだろうと考えられています。

(いほべ ひろし・椙山女学園大学)



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