MWCS 活動報告 カトゥンビ小学校で環境教育を行ってきました報告者 島田 将喜
マハレの野生チンパンジーの日本人調査者にとって、もっとも身近な村はカトゥンビ村です。アシスタントの多くやその家族も暮らす人口5000 人ほどの村です。マハレ国立公園に隣接しているため、村の人々にとってマハレの野生動物たちはたいへん身近な存在です。つまり読者の皆様にご協力いただいているマハレの森の環境保全を、将来にわたって持続してゆくためには、カトゥンビに暮らす子どもたちにこそ、その意義を理解してもらい、保全活動の担い手となっていってもらわなくてはなりません。そうした想いから、これまでにも私たちはさまざまな形で現地の教育の支援をしてきました。これまでの支援は、現地では手に入りにくい学用品の小学校への支給(珍聞31 号など)が多かったのですが、2018 年夏の滞在では私自身が講師となって、直接「環境教育」を行ってきました。このときの様子について簡単にレポートいたします。 写真1 講義の準備 日本人が講義をすると聞いて、さして広くない教室に詰めかけたのは13 〜 15 歳くらいまでの学生たちと、教員など百数十名ほどでした。私は拙いスワヒリ語で自己紹介を終えたあと、タンザニアに暮らす多くの動物たちの写真をスライドで写して、その名前を当てるゲーム形式で進めていきました。サバンナ地帯で多く見られるゾウやライオンといった動物の名前は、たとえ実物を見たことがなくても正解する子どもがほとんどでした。しかしマハレ山塊の森林がそうであるように、タンザニアにはサバンナ以外にも多様な植生があり、環境が異なると棲む動物も異なります。カトゥンビ近くで見られるはずの主に森林に暮らすサルの仲間の識別は難問だったようで、名前を正解できた子どもは少数でした。子どもたちが暮らすタンザニアには、バラエティ豊かな自然が残されていて、またそうした多様な環境が残されているからこそ、たくさんの異なる動物たちが豊かなのだということを伝えたかったのです。 チンパンジーのことはやや詳し目に話しました。写真や動画を見せて、チンパンジーが何をしているところかを当てるゲームをしました。たとえばチンパンジーのお母さんが、大きくなったコドモを背負って歩いている様子に、教室は大きな笑い声に包まれました。私たちが50 年以上もかけて調査に取り組んでいるのは、ヒトの理解には彼らの存在が欠かせないこと、そしてチンパンジーたちは、タンザニアではカトゥンビ周辺に多く暮らしており、これまで調査を通じていかに日本人とトングウェの方々がこれまで協力し合ってきたかを簡単に説明しました。 私が子どもたちに一番伝えたかったことは、「カトゥンビに暮らすあなた方こそがマハレの保全の未来の担い手です」ということでした。私のスワヒリ語は不十分で、とても完全に伝わったとは言い難い出来栄えだったと思います。しかしそんな拙い講義であっても、とても熱心に聞いてくれ、手をあげて回答に参加してくれたことに感動しました。また質疑応答もとても活発でした。たとえば「チンパンジーがヒトによく似た行動をすることは分かったけれど、なぜ似ているのか」、「チンパンジーの研究をすることにはどんな利益があるのか」といった、私の予想の超える質問が飛んできたりして、どう答えたらよいかわからず困る場面もありました。私がスワヒリ語の質問の意味がわからず困っていると、先生方が表現を簡単にして問い直してくれたりしてくれたおかげで、何とか最後まで1時間強の濃密な講義を終えることができました(写真2)。 写真2 活発な授業参加(撮影 松浦直毅) 同行した松浦直毅さん(今号の『珍道中』)には、ぜひ今後も続けるといいというコメントをいただきました。反省点も多かったですが、子どもたちが喜んでくれるようなら、またぜひ別の機会にも、(スワヒリ語をもっと上達したうえで)講義をしたいと思いました。そしてそうした環境教育が、この地域のトングウェの子どもたちの自然観や保全意識を高めることに貢献できるとすればとてもうれしいです。 (しまだ まさき・帝京科学大学) 第32号目次に戻る | 次の記事へ |