第11回 地面から生える手? ―カエンタケの近縁種
中村 美知夫
「なんじゃ、こりゃ!?」とまあ誰でも思うのではないでしょうか。
イビツな形です。指のように枝分かれしていて、ちょうど人間の肌のような色です。寸詰まりの手が地面から生えているという感じでしょうか。そう思うとちょっとホラーです。生姜の塊が土に突き刺さっているといった感じにも見えます(生姜よりも表面はつるっとしていますが)。
写真1 地面から生えているところ
例によって愛用の『日本のキノコ』で似たキノコはないかと探してみます。こんな独特の形ならすぐに見つかるに違いない…。と思ったのも束の間、似たものが見つかりません。「えーっ。なんで?」。ネットの画像検索でも、まったくそれらしいものはヒットしません。うーん、困った。せめて何の仲間なのかも分からないとこのコーナーで紹介のしようもないではないですか。
困り果てて、キノコの専門家、連載の第3回目でもご教授を頂いた帝京科学大学の岩瀬剛二先生のご意見を聞いてみました。いくつか可能性があるが、カエンタケ(Trichoderma cornu-damae)の仲間ではないだろうかとのことでした。さっそく「カエンタケ」で画像検索してみると、なるほどたしかに手のような形や質感などはよく似て見えます。ただ、カエンタケはその名のとおり「火炎」のような鮮やかな赤色をしているという点が異なります。
もう一点、明らかに違うのは、カエンタケは猛毒だということ。なんと、カエンタケは触るだけで皮膚に炎症を起こすほどの強い毒性を持っているそうです(食べると相当に危険)。マハレのものは、少なくとも手で触って腫れるような毒性はなかったようです。
写真2 手に取ってみたところ―カエンタケだったらこれだけで手が腫れていたかもしれない
しかしなぜそのような悪名高く、かつ分かりやすい形状のキノコを見逃したのだろう、と再び『日本のキノコ』を見返してみると、確かにカエンタケは載っていました(p. 587)。しかし図鑑の写真では、枝分かれしておらず、ひょろ長い円筒状のキノコでした。色が違うせいもあって完全にスルーしてしまったようです。説明には「円筒形か枝分かれして手の指状、先端は丸いかとがる」とあるので、けっこう形にはバリエーションがあるのでしょう。最終的に、岩瀬先生からは、エゾノシロボウズタケ(T. gigantea:カエンタケの近縁種で、色が赤くなく大形の種)に近いかも、というご教授を頂きました。岩瀬先生には、お忙しい中いろいろと調べて頂きました。深く御礼申し上げます。
写真3 こんな形のものも
さすがに私もよく分からないキノコを食べたりはしませんが、触るだけで危険というものがあるとは知りませんでした。うかつに素手で触ってしまいましたよ。危ない危ない…。
皆さんも、こんな形の赤いキノコを見たら決して触らないように。
(なかむら みちお 京都大学)
参考文献
旭川きのこの会オンライン「肉座菌科」http://asahikawa-kinoko.sakura.ne.jp/photo_gallery/70nikuzakinka.htm 2017年9月30日アクセス.
今関六也・大谷吉雄・本郷次雄(編)2011. 『日本のキノコ―増補改訂版』山と渓谷社
Wikipedia online(日本語版)「カエンタケ」https://ja.wikipedia.org/wiki/カエンタケ/ 2017年9月30日アクセス.
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