第22回 イヌ科の仲間

五百部 裕


 マハレには2種類のイヌ科の動物がいます。今回はこの2種の紹介です。
 まずはヨコスジジャッカル(学名はCanis adustrus)です。ジャッカルの仲間はヨーロッパ南東部や中東からインドにも生息しており、4種に区別されています。そして、インド・ヨーロッパ・北アフリカに生息するキンイロジャッカル(C. aureus)とエチオピアに生息するアビシニアジャッカル(C. simensis)は、オオカミ(C. lupus)に近縁だとされています(学名を見ていただければわかるように、オオカミとジャッカルは同じ属です)。そのためこの2種は、オオカミを家畜化したイヌと繁殖能力のある雑種を作ることができます。アフリカにはもう一つ別の種、セグロジャッカル(C. mesomelas)が南部アフリカに生息しています。ヨコスジジャッカルは、ギニア湾沿岸やコンゴ盆地の熱帯雨林の周辺の少し乾燥した森林を中心に、西アフリカから東アフリカまで幅広い分布域を持っています。おとなの体重は10 kg程度、体長は70〜80 cm程度で中型犬くらいの大きさです。名前の通り、肩から腰にかけての白の横縞が特徴的です。雑食性でネズミやウサギなどの小型の哺乳類や昆虫、さらには落果などの植物性の食物も食べます。雌雄1頭ずつのペアを形成し、このペアがなわばりをかまえて生活しています。キツネと同じような生態的地位(ニッチェ)を占めており、この種がいるために中央アフリカにはキツネの仲間が生息していないと考えられています。IUCN(国際自然保護連合)のレッドリストに掲載されておらず、絶滅の可能性は低いと考えられています。



写真 ウガラで撮影されたヨコスジジャッカル(撮影 仲澤伸子)



 もう1種はリカオン(ワイルドドッグ、学名はLycaon pictus)です。ヨコスジジャッカルとは属が異なりますが、ヨコスジジャッカルやセグロジャッカルと比較的近縁だと考えられています。以前は、ギニア湾沿岸とコンゴ盆地内の熱帯雨林地域を除いたサハラ砂漠以南のほぼ全域に生息していたと考えられていますが、人間の影響により現在の分布域は分断されたものになっています。おとなの体重は20〜30 kg程度、体長は80〜100 cm程度で中〜大型犬くらいの大きさです。全身、黄や茶、そして白のまだら模様の毛に覆われ、尾の先端の白い房が特徴的な動物です。基本的には小型から中型の哺乳動物(アンテロープの仲間など)を餌としていますが、ときに大型の哺乳動物を集団で襲って食べることもあります。パックと呼ばれる群れを作って生活しています。繁殖に携わる雌雄のペアとその子どもたち、さらにペアとは血縁関係にないおとなの数頭の雌雄でパックを形成しています。雌雄ともパック間を移動することがありますが、メスの方が流動性は高いようです。一つのパックは、200〜2000 km²といった広大な遊動域を持っています。平均寿命は、この大きさの哺乳動物としては短い10年以下と考えられています。生息地が分断されているために、IUCNのレッドリストでは、地域個体群の多くがVulnerable(絶滅危惧U類)とされています。
 今回紹介した2種とも、国立公園内に生息していることは間違いありませんが、カソゲ地区で観察されることはほとんどありません。そこで残念ながら私もこの2種を見かけたことはありません。

(いほべ ひろし 椙山女学園大学)



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