第10回 ヒョウタンツギのモデル!?
        —ヒメツチグリの仲間

中村 美知夫


 思い出したのは、なぜか「ヒョウタンツギ」。

 マンガ好きの人はご存知でしょうが、ヒョウタンツギは、マンガの神様こと手塚治虫の作品のあちらこちらに登場する謎のキャラクターです。ヒョウタンを逆さまにしたような頭部に、白目だけの目とブタのような鼻があり、胴は地面に縫い付けられるように生えています。全身にツギが当たっているので「ヒョウタンツギ」と言うようです。シリアスなシーンなどにも唐突に現われ、口の部分からガス状のものを吹き出します。


写真1 地面から生えているところ―よくよく見ればブタ鼻っぽく見えなくもない??



 もちろん、この写真のキノコはヒョウタン型でもなく、ブタ鼻もありません。それでも私がヒョウタンツギを想起したのにはいくつか理由があります。

 重要なのは、ヒョウタンツギはキノコだという説を私が耳にしていたということ(ヒョウタンツギの正体については諸説あるようですが)。たとえば、釈迦の一生を描いた『ブッダ』という作品の中で、シッダルタ(=ブッダ)が、ヒョウタンツギを手に、「これはなんというたべものなのか?」と尋ね、その料理を出した鍛冶屋が「はい ヒョウタンツギと申しますキノコで…」と答えるシーンがあります。

 「どう考えてもキノコっぽくない…。」そのときに引っかかった感覚が、マハレの森で、この奇妙な袋状の肌色の物体を見つけたときにフラッシュバックしたのかもしれません。ヒョウタンツギがキノコだとすると、口から噴射しているものは胞子だということになります。このキノコを山刀(パンガ)の先で突いてみたら、孔から細かい煙のような胞子がモワッと噴き出しました。ヒョウタンツギと同じだ…。


写真2 袋(胞子嚢)を開いてみたところ―細かい粉状の胞子が大量に入っている



 調べてみたところ、どうやらこのキノコはヒメツチグリ科のMyriostoma coliforme のようです(例によって素人同定なので、間違っているかもしれません)。ツチグリ科やヒメツチグリ科の仲間は、外皮の部分が放射状に開いて星型になります。このことから英語では「earthstar」、中国語では「地星」と言うようです。

 数ある「地星」の中でもMyriostoma は、胞子嚢(真ん中の丸い部分)に小さな孔が複数開いているのが特徴です(多くの「地星」は孔がてっぺんに一つ)。こうした特徴から、「salt-shaker earthstar(塩振り地星)」とか「pepperpot(胡椒入れ)」という名もあるようです。Myriostoma 属は一属一種なので、属の同定が正しければ、M. coliforme という種だということになります。

 ひょっとすると手塚はこうしたキノコの存在を知っていて、ヒョウタンツギをキノコだと言っていたのかもしれません。

(なかむら みちお 京都大学)



参考文献
矢戸優人 オンライン.「ヒョウタンツギをめぐる諸説について」http://www.scn-net.ne.jp/~yato/hyoutan/theory/theory.htm (2017 年5 月14 日アクセス).
Wikipedia online(英語版)「Myriostomahttps://en.wikipedia.org/wiki/Myriostoma(2017 年5 月14 日アクセス).



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