第8回 タンザニアを車で横断する
〜変わる道路事情〜その②

仲澤伸子

 

 以前、「タンザニアの警察官はkama mwizi( 泥棒みたい) だ」と、あるドライバーがぼやくのを聞いたことがあります。「やつらはお昼頃、腹が減ると大通り沿いに出てきて、車を止めては難癖をつけ、多額の罰金を支払わせる。しかしレシートは切らない。着服して、彼らのご飯代にするのだ」と教えてくれました。わたしたちのような外国人を乗せた車は、お金を持っていると思われるので、特に警察官に狙われると感じているようでした。実際、車を利用して長距離を移動するとき、わたしが乗っている車はしばしば警察官に止められました。そのまま車の中をチェックして放してもらえることもありましたが、どうしても放してもらえないこともあります。そんなとき、ドライバーの方は、勘弁してもらうようお願いするのが、とても大変そうでした。

 そんな警察官への対抗手段として編み出されたのが、タンザニア全土共通と言われているドライバー間のハンドサインです。

 警察官が見張っていそうな大きな交差点に近づくと、時折ブルーノさんが腕を外に出し、すれ違う車にサインを出し、相手もサインを出して答えます。対向車同士で「この先に警察官はいるか?」「いや、いないよ」または「いるよ、気を付けろ」というサインを送りあっているのです。対向車はその交差点を通過してきたわけですから、わたしたちの行く先に警察官がいるかどうかを知っています。嘘をつかれることもありますが、数台の車に聞けば、おおむね正確な情報が得られます。


写真1 早朝から何もない道を進む(提供 伊藤詞子)



 以前まではその素晴らしいサインのおかげで、警察官に指摘されそうなことは交差点に差し掛かる前にチェックして、違反のないように対応できておりました。しかし、今は警察の方も、速度計を持った覆面警察官が交差点のずっと手前に潜んで、はるか前方の警察官に、速度オーバーを電話で報告するなどしてドライバーに対抗しているようです。ドライバー間のハンドサインは当然警察官も知っており、また速度違反はもちろんいけないことではあるのですが、取り締まるためにそこまでするのかと驚きました。

 そんなハラハラする一面もありますが、旅はおおむね穏やかにすすみます。「星の王子様」に出てくることで有名なバオバブの木がそこかしこに見えるようになると、宿泊予定のドドマはもうすぐそこです。


写真2 バオバブが見えるとドドマはもうすぐそこ



 ドドマに着いたのは夕方六時頃でした。まだ明るいうちにドドマに着けたので、ブルーノさんがバオバブオイルのお店を紹介してくれました。タンザニア人の旦那さんと、日本人の奥さんのお二人で経営していらっしゃるそうです。ご夫婦はいらっしゃいませんでしたが、物腰の穏やかな娘さんが対応してくださいました。バオバブオイル、オイルから作った石鹸、バオバブの実など、さまざまな商品を見せていただきました。

 翌日も出発は早朝でした。「キゴマを出発した翌日にはダルエスサラームに着ける」との旅程を聞いた時には、着けるとしても夜中だろうと思っていたのですが、サイザル麻の畑や、ひまわり畑を通り過ぎると、あっというまにダルエスサラームに到着しました。まだ日も高い午後三時でした。

 伊藤さんとわたしが車でタンザニアを横断したのは、これで二度目です。一度目は三年前で、二泊三日の行程でした。その時のドライバーもブルーノさんでしたが、道は整備されておらず、天気も悪かったので、ブルーノさんもわたしたちも大変疲弊しました。一日目にドドマに着いたのは、だいぶ遅い時間でした。そして二日目も夜遅くに到着したモロゴロに宿泊し、ダルエスサラームに着いたのは三日目のことでした。素晴らしい運転技術を持っているブルーノさんでも、一泊二日でキゴマからダルエスサラームにたどり着くのは難しいと聞いていました。

 今回わたしたちはキゴマを朝六時に出発し、翌日の午後三時にはダルエスサラームに着いていました。道はとてもきれいになっていたので、乗っている身としてはとても快適で、ご飯を食べる時間的な余裕も、宿でゆっくり休む時間もありました。たった三年で急速に道路の開発、整備が進み、利便性が高まっていることを実感すると同時に、環境への影響を考えると何とも言えない複雑な気持ちになりました。

(なかざわ のぶこ 京都大学)



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