第7回 タンザニアを車で横断する
〜変わる道路事情〜その①

仲澤伸子

 

 調査のしめくくりは、マハレから日本への旅です。アルーシャを経由せずにダルエスサラームから国際線に乗って帰国する場合、まずはマハレからボートやリエンバを使ってキゴマに出ます。そしてキゴマからダルエスサラームを目指すのですが、キゴマ―ダルエスサラーム間は、約1230km、距離にして本州の端から端まで…というには少し及ばないくらい離れています。この長距離の移動手段は複数あります。飛行機移動は、ぬかるみに車輪がはまって飛行機が離陸できなかったり(珍道中第1回)、突然欠航になったりと、ハラハラする要素が満載ですが、短時間で移動ができ、身体的疲労が少ないという点で効率的な移動手段です。一方、鉄道移動は、安価で移動でき、時間はかかりますが、タンザニアを満喫できるという魅力があります(珍道中第5,6回)。これ以外には、高速バスとレンタカーという手段があります。高速バスは鉄道移動より早いですが、バスに乗り続けるのはとても疲れますし、しばしば事故も起こります。また運転手によっては悪路を高速で走るので、生きた心地がしません。レンタカーは飛行機移動以上にお金がかかりますが、大切な荷物や大量の荷物を一度に運べるのが大きな利点です。マハレでのみ調査をするようになってからもっぱら飛行機移動になりましたが、以前に他の調査地でも調査をしていた時には、レンタカーをよく利用していました。調査地が国立公園ではなく、日本人不在時に調査器材を拠点に置いておくと盗まれてしまうので、生活必需品、ソーラーパネル、調査器材等々すべてを毎回ダルエスサラームから運ぶ必要があったからです。キゴマでもレンタカーの手配はできると思いますが、旅の安全面、車の故障等による移動日程の遅延、運転手とのトラブル等が怖いので、車を借りる際は、お世話になっているダルエスサラームの旅行会社さんに、ドライバーもあわせてお願いしています。

 今回の渡航では、ダルエスサラームで購入した新しいエンジンをキゴマへ運ぶため、伊藤さんとわたしの二人でレンタカーを利用しました。わたしたちがマハレに入るときにレンタカーでエンジンを運べたらよかったのですが、エンジンの入荷が遅れたため叶いませんでした。そこで、わたしたちの調査中に旅行社の方にエンジンを購入していただき、わたしたちがマハレから出て帰るタイミングにあわせて車でキゴマまで送ってもらい、エンジンはそのままマハレへ送り、エンジンをおろした車にわたしたちが乗り込み、ダルエスサラームに帰ることになりました。


写真1 悪路も走れるランドクルーザー



 車はランドクルーザー、運転手は日本語も知っている熟練のタンザニア人ドライバー、ブルーノさんでした。ブルーノさんは大の田舎嫌いです。都会に早く戻りたい(かつ田舎のホテルに泊まりたくない)ので、ダルエスサラームからキゴマへの往復を他のどのドライバーよりも速く駆け抜けます。今回はわたしたちがダルエスサラーム発の国際線に必ず間に合わないといけないことから、旅行会社さんが彼をドライバーとして手配してくださいました。

 7月8日にブルーノさんからエンジンを受け取り、マハレへと送る手配をしたわたしたちは、そのままキゴマで一泊して9日の早朝に出発しました。 キゴマ―ダルエスサラーム間の道は、おおむねまっすぐに町と町をつなぐように走っています。町が近づくと往来が盛んになりますが、町中を出ると往来がなくなりブルーノさんはスピードを上げます。道から見える風景は代わり映えがしなくなり、気の利かないわたしはドライバーとの会話を助手席の伊藤詞子さん(京都大学)に任せ、うとうとしていました。


写真2 大量の荷や人を乗せた車とすれ違うことも



 ただただまっすぐのびる道をわたしたちの車だけが走っていると、スピードがあがりがちになってしまうので、速度オーバーには気を付けなければなりません。そんな道中にもとりわけ気を配らなければならない場所があります。町の近くや大きな交差点などの、警官が立っている場所です。警官がいる場所はだいたい決まっているらしく、それらの場所をドライバーは覚えています。警官の横を通り過ぎるときは一瞬緊張が走ります。交通違反をしていないはず、と思っていても車を止めるよう合図されることはありますし、つかまると面倒なことになる時があるからです。【続く】

(なかざわ のぶこ 京都大学)



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