第20回 カソゲには(ほとんど)いない
「有蹄類」3

五百部 裕


 今回も前回に引き続き、Mグループを中心にチンパンジーの観察が集中して行われているカソゲ地区では(ほとんど)見られない鯨偶蹄目(クジラウシ目)に属する動物を紹介します。

 まずはヤブダイカー(学名はSylvicarpa grimmia)です。「マハレの動物たち」の第1回(マハレ珍聞9号、2007年)で取り上げたブルーダイカーに近縁な動物です。ブルーダイカーがアフリカの森林地帯に幅広く分布するのに対して、ヤブダイカーは森林周縁部の疎開林やサバンナに広く分布しています。体重は10〜20kg程度の中型のダイカーで、雌雄とも単独生活を送っており、果実や木の葉、ときには根などを食べて生活しています。

 次はシャープグリスボック(Raphicerus sharpei)とクリップスプリンガー(Oreotragus oreotragus)です。いずれも体重10〜15kg程度の比較的小型のアンテロープ類です。シャープグリスボックはタンザニア、ザンビア、モザンビークなどの疎開林を中心に分布しており、一方、クリップスプリンガーは東アフリカら南アフリカにかけての、やはり乾燥した環境下に分布しています。シャープグリスボックは夜行性で雌雄のペアで生活しています。一方、クリップスプリンガーは、薄暮性でやはり雌雄のペアで生活しています。いずれも草の葉よりも木の葉を好んで食べます。

 ウォーターバック(Kobus ellipsiprymnus)は大型のアンテロープ類で、雌の体重は200kg程度、雄は300kg程度にもなります。名前の通り、森林周縁部の疎開林やサバンナの水辺に広く分布しています。雄には最大1m程度になるような立派な角がありますが、雌には角はありません。雌雄とも単独生活を基本にしていますが、ときに数十頭が集まって大きな集団を形成することもあります。おもに草の葉を食べて生活していますが、新鮮な草が手に入らないときには木の葉も食べます。


写真1 マハレ公園境界域の疎開林で出会ったウォーターバック(撮影 座馬耕一郎)



 ローンアンテロープ(Hippotrangus equinus)も大型のアンテロープ類で、雌雄ともウォーターバックと同じくらいの体重です。彼らの特徴は、ウォーターバックと違い雌雄とも後方に反り返ったたいへん大きな角を持つことで、おとな雄では1m近くになることもあります。サハラ砂漠の南縁の乾燥地帯やタンザニア、ザンビア、アンゴラの疎開林などに分布しています。10数頭からなる単雄群を形成し、おもに草の葉を食べて生活しています。


写真2 ウガラの草原で撮影されたローンアンテロープ(撮影 仲澤伸子)



 今回紹介した5種とも、カソゲ地区で見られたことはありません。いずれも比較的乾燥を好む種なので、国立公園の北部や東部でしか見ることのできない動物たちです。

(いほべ ひろし 椙山女学園大学)



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