第8回 キノコの女王 — キヌガサタケ

中村 美知夫


 マハレの雨季の朝。チンパンジーを探しに出る時間になっても森の中はまだまだ薄暗いことがほとんどです。これは、東側に聳えるマハレ山塊に阻まれて陽が昇るのが遅いのと、空が厚い雲に覆われているため。さらに、連日の雨で地面を覆う落ち葉は濡れ、周りが暗いのと相まって地面は全体的に黒っぽく見えます。

 そんな陰鬱とした森の中を歩いていても、このキノコに出会うと一気にテンションが上がります。黒い地面とコントラストをなして、ひときわ美しく見える真っ白なレース状のマント。その優雅な姿から「キノコの女王」と言われるキヌガサタケです。おそらく、日本に生えるのと同じ種(Phallus indusiatus、ただしDictyophora属とされる場合もある)でしょう。この種は世界中に広く分布し、アジア・アフリカ・アメリカ・オーストラリアで見られるようです。


写真1 マハレのキヌガサタケ―この美 しい姿が見られるのは朝方だけである



 キヌガサタケは明け方頃から伸び始めて、2〜3時間で成長しきります。その後は半日くらいで崩れてしまいますから、同じ場所を夕方に通っても、もう朝のような美しい姿を見ることはできません。

 属名のPhallusは「陰茎」という意味。では、種小名のindusiatusはどういう意味だろうと思って、Google翻訳で調べてみたら「下着を身に着けています」と出てきたので思わず笑ってしまいました。日本語では「衣笠茸」。「衣笠」とは古代に天皇や貴族などに差すのに用いた絹張りの長い柄の傘のことですから、かなり高貴なイメージです。ついでながら、英語ではlong net stinkhorn(長い網の臭う角)とか、veiled lady(ヴェールの貴婦人)とか言うようです。同じ物を見ても想像することがさまざまで面白いですね。


写真2 キノコの先端には小さなハエがたかっている(白丸を付けたところ)―悪臭でハエを引き寄せて、ハエの体に胞子を付けて散布するのだ



 マハレで見たときには知らなかったのですが、キヌガサタケは食用になるようです。中国では高級食材として栽培もされており、ネットでは乾燥キヌガサタケがなんと100グラム3,500円ほどで売られていました。先端部分にはグレバという悪臭のする粘液がついていますので、それをよく洗い流して、白い部分をスープなどに使うようです。なんとも不思議な食感なのだとか。

 次に出会ったら是非試してみたいものです。

(なかむら みちお 京都大学)



Google翻訳 https://translate.google.co.jp/(ラテン語から日本語へ翻訳) 2016年6月9日アクセス.
今関六也・大谷吉雄・本郷次雄(編)2011. 『日本のキノコ―増補改訂版』山と渓谷社
Wikipedia online(日本語版)「キヌガサタケ」 https://ja.wikipedia.org/wiki/ キヌガサタケ 2016年6月9日アクセス.
Wikipedia online( 英語版)「Phallus_indusiatus」 https://en.wikipedia.org/wiki/Phallus_indusiatus 2016年6月9日アクセス.


第27号目次に戻る次の記事へ