第19回 カソゲには「ほとんど」いない
「有蹄類」2

五百部 裕


 今回も前回に引き続き、M グループを中心にチンパンジーの観察が集中して行われているカソゲ地区では(ほとんど)見られない「有蹄類(ゆうているい)」について紹介したいと思います。今回は、鯨偶蹄目(クジラウシ目)に属する動物を紹介します。

 まずは簡単に「鯨偶蹄目」の説明をしておきます。「マハレの動物たち」の第1回では、ブルーダイカーを取り上げました(マハレ珍聞9号、2007年)。このとき、ブルーダイカーの系統的位置は「偶蹄目(ウシ目)ウシ亜目ウシ科ヤギ亜科ダイカー族に属する」と書きました。当時は、ウシをはじめとした二つに割れた蹄を持つ陸生の哺乳類を「偶蹄目」というグループにまとめる考え方が主流でした。しかしその後の研究、とくに遺伝学的研究によって、このグループの動物たちとクジラの仲間が、系統的に非常に近いことが明らかになりました。そのため、この二つのグループを合わせて「鯨偶蹄目」とするのが最近の考え方です。水中で生活するクジラやイルカの仲間と地上で生活するウシやカモシカの仲間が同じグループに属するというのは、たいへん意外な感じがしますが、この考え方が正しいようです。そしてたいへん興味深いことに、クジラの仲間に最も近縁な陸生の「偶蹄類」は、カバであることが明らかになっています。陸生とはいっても多くの時間を水中で過ごすカバは、形態や行動の面でもクジラとの共通点が多いことが明らかになりつつあります。


写真1 疎開林で出会ったバッファロー( 撮影 花村俊吉)



 この鯨偶蹄目に属する動物の中で、カソゲでは見られない動物の代表が、ウシ亜目ウシ科ウシ亜科アフリカスイギュウ属に属するアフリカスイギュウ(アフリカバッファロー、学名はSyncerus caffer)でしょう。ちなみにこの属に属する動物はアフリカスイギュウのみです。西アフリカから東アフリカ、そして南アフリカと、熱帯林と砂漠のような乾燥が激しい場所を除く広い範囲に分布しています。3〜4亜種に分けられると考えられていますが、この分類については確定していません。このうち、マハレに生息する亜種はケープアフリカスイギュウ(S. c. caffer)です。マハレ山塊国立公園では、おもにンクングエ山塊の東側の乾燥した地域に生息しており、広域調査のためのサファリの際などに出くわすことがあります(写真1)。体高は1mを超え、雄では体重が1t近くになることもある大型の動物です。彼らは草原やサバンナでおもに草を食べて生活しており、とくに新芽を好んで食べるようです。雌とその子どもたちからなる集まりを核として群れを形成しており、ときに1000頭を超えるような大きな群れをつくることもあります。IUCN(国際自然保護連合)のレッドリストでは、Least concernに分類されており、絶滅の可能性は低いと考えられています。

(いほべ ひろし 椙山女学園大学)



第27号目次に戻る次の記事へ