第7回 発泡スチロールのボール?
— オニフスベの仲間

中村 美知夫


 チンパンジーの調査を終えて、キャンプへの帰路を一人歩いていると、薄汚れた白いボールが落ち葉に半分埋もれた状態で落ちていました。発泡スチロールのようにも見えます。また不届き者が何かゴミを捨てたのだろうかと思って、足先で軽く蹴ってみましたが動きません。このボールは「落ちている」のではなく、どうやら地面から「生えている」ようです。当然発泡スチロールが地面から生えるわけはありません。

 「ということは、これはキノコの仲間かもしれない」と思った私は、ひとまずその状態を写真に収め(写真1)、周りの落ち葉を取り除いてみました。キノコなら下の部分に柄があるだろうと思ったからです。予測は外れました。いわゆるキノコの柄のようなものはなく、たんに白い球体が地面にひっついています。少し力を入れるとぽろっと地面から外れました。


写真1 地面から生えているところ


 おそるおそる持っていた山刀( パンガ) で2つに割ってみましたが、それこそ発泡スチロールを切っているような手応えです。とくに目立った内部構造はなく、ただ白い柔らかい物体が均質に詰まっているだけです(写真2)。外側は薄汚れた感じですが、中は真っ白です。何の構造もないこの白い球体がキノコである確証も得られぬまま、その日はひとまず引き上げました。数日後に同じ場所を通りかかると、真っ白だった球体はすでに茶色になって朽ちかかっていました。


写真2 割ってみたところ


 帰国後、毎度お馴染み『日本のきのこ』で調べてみると、よく似たキノコが見つかりました。オニフスベ(Calvatia nippinica)という名前です。ただし、この種は日本特産らしいので、マハレで私が見たものは同じ属の別の種でしょうか。ちなみにオニフスベは、かつてオニフスベ属(Lanopila)という独立した属に分類されていましたが、現在ではノウタケ属(Calvatia)に含まれるようです。

 同じ図鑑によると、オニフスベはなんと食用になるそうです。食べられるのは肉が白いうちだけで、肉質ははんぺんに似るとか。しかし、いったい誰が発泡スチロールのような球体を「食べてみよう」と思ったのでしょうね。

参考文献
今関六也・大谷吉雄・本郷次雄(編)2011. 『日本のキノコ―増補改訂版』山と渓谷社.

(なかむら みちお 京都大学)



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