第18回 カソゲには「ほとんど」いない
「有蹄類」1

五百部 裕


 「マハレの動物たち」の第16回で予告したように、マハレにおけるチンパンジー研究50周年を記念して、「MahaleChimpanzees: 50 Years of Research」と題する本が2015年9月に出版されました。この本で私は「Mammalian Fauna」という章と「Appendix V: Mammal List」を担当し、マハレに生息する哺乳類について整理しました。こうした過程で、この「マハレの動物たち」でこれまで取り上げてこなかった動物の情報が得られたので、今回はカソゲ地区では(ほとんど)見られない「有蹄類(ゆうているい)」について紹介したいと思います。

 「有蹄類」とは「蹄(ひづめ)」を持った動物の総称ですが、生物の分類にきちんと対応したものではありません。一般には、偶蹄目(鯨偶蹄目)、奇蹄目、長鼻目の中で蹄を持った動物を指します。また広義には、原始的、ないしは痕跡的な蹄を持つイワダヌキ目(ハイラックス目)、管歯目(ツチブタ目)、海牛目(ジュゴン目)を含める場合があります。そしてこれまでの「マハレの動物たち」では、Mグループを中心にチンパンジーの観察が集中して行われているカソゲ地区に生息する動物を紹介してきました。しかしカソゲ地区は、マハレ山塊国立公園の中のほんの一部であり、そこに生息する動物は限られています。そこでマハレのことをより知っていただくために、今回と次回はカソゲ地区では(ほとんど)見られない有蹄類の仲間を紹介していきます。

 まずは長鼻目に属するアフリカゾウ(学名はLoxodonta africana)です。たぶん説明するまでもない有名な動物ですね。アフリカゾウというとサバンナが似合う感じがしますが、森林の中にも生息しています。そしておもにサバンナに生息するものをL. africana africana、おもに森林に生息するものをL. africana cyclotisと亜種で区別しています。マハレに生息するのは前者で、おもにンクングエ山塊の東側の乾燥した地域に生息しています。雌とその子どもたちからなる母系の集団と雄集団に分かれて生活し、木の葉や草、ときには果実などを食べています。アフリカ全体で急速に数を減らしており、IUCN(国際自然保護連合)のレッドリストでは、Vulnerable(絶滅危惧U類)に分類されています。


写真 タランギーレ国立公園のサバンナシマウマ(撮影 保坂和彦)


 次は奇蹄目に属するサバンナシマウマ(学名はEquus quagga)です。これもアフリカでは有名な動物ですね。サバンナシマウマが属するEquus属(ウマ属)のうちアフリカに生息するのは4種で、サバンナシマウマ以外の3種はロバ(E. africanus)、グレビーシマウマ(E. grevyi)、ヤマシマウマ(E. zebra)です。サバンナシマウマは、文字通りサバンナを生息域にしており、アフリカゾウと同じく、マハレではおもにンクングエ山塊の東側に生息しています。1頭の雄と数頭の雌、そしてその子どもたちからなる一夫多妻の群れで暮らしています。IUCNのレッドリストではLeast Concernとされており、一応絶滅の危機には瀕していないと考えられています。

 私は、残念ながらマハレでは、アフリカゾウもサバンナシマウマも見たことはありませんが、いつかンクングエ山塊の東側に行って、その美しい姿を見てみたいと思っています。

(いほべ ひろし 椙山女学園大学)



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