マハレの動物図鑑
〜親から子へトングウェの知識を伝える
新しいツール〜

座馬耕一郎

 

 今年の9月、トヨタ財団研究助成プログラムの援助を受け、マハレ野生動物保護協会では、マハレの動物図鑑“Wanyama wa Mahale”を作成しました。この図鑑のおもな特徴は以下の5点。①マハレ近辺に生息する動物を収録、②見出しはトングウェ語の動物名、③マハレ近辺で撮影された写真を掲載、④説明は「少なめ」(スワヒリ語で記載)、⑤マハレ近辺の観察スポットを紹介。つまり、マハレでしか使えない、ローカルな図鑑という特徴です。


図鑑の見開き。数字は本文の該当箇所に対応。図鑑の写真は、マハレ研究者の仲澤伸子さん、大谷ミアさん、中村美知夫さん、飯田恵理子さんにご協力いただきました。


 なぜこのような図鑑を作ったのか。そのわけは、この地で昔から生活を営んできたトングウェの持つローカルな知識を活かしたい、という思いがあったからです。

 マハレの調査がはじまってから50年、地域の人びとの暮らしも大きく変化してきました。とくに近年のグローバル化により、地域の暮らしの中にも国内外からのさまざまな商品が出回り、村にもテレビや携帯電話が入るようになりました。それまでのトングウェの人びとは、儀式でうたわれる歌にも動物たちが登場するなど、野生の動植物と深くかかわった暮らしをしていました。その動植物の知識は、トングウェの生活文化の一端を担っているといえます。しかし生活スタイルの変化により、野山に入る機会が減り、親から子へと、トングウェの動植物に関する知識が伝わる機会が失われようとしています。

 世界各地の生物多様性保全の現場では、地域住民への環境教育が行われています。しかしマハレには、トングウェの人びとの在来の知識があります。この図鑑は地域の小学生の参考書として作りました。この図鑑から知識を得てほしいと思ったわけではなく、この図鑑をみんなで見ることで、「この動物はこんな動物だ」といった知識が、親から子へと伝わるきっかけになればと思っています(説明が少なめなのはこういった会話を引き出すためです)。この図鑑が、現代の生活の中でトングウェの文化が後世に伝わっていくツールのひとつになってくれればと思っています。

(ざんま こういちろう 京都大学)



2015年12月に中村美知夫さんが代表してカトゥンビ小学校に図鑑を寄贈してきました!



カトゥンビ小学校のジュマ校長に図鑑を渡す(撮影 中村美知夫)




さっそく図鑑を手に取って嬉しそうな子供たち(撮影 中村美知夫)




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