第6回 チンパンジーの陰茎( ペニス) のような…?
— キツネノエフデの仲間

中村 美知夫


 前回までは、食べられるキノコを紹介してきましたが、今回からは食用ではないキノコを紹介します。実際には食べられるものもあるのかもしれませんが、現地の人が食べているものや、私でも簡単に分かるキクラゲのようなもの以外は、「食べられるのかどうか分からない」と言うほうが正確かもしれません。キノコに関しては素人判断で試食するのは危険ですので、いかにも美味しそうなキノコでも食べてみることはありません。

 雨季のマハレは本当にキノコの宝庫です。その辺りを歩けばさまざまなキノコが生えています。多くのキノコはキノコらしい形のキノコですが、中にはなかなか不思議な形をしたものもあります。その一つが今回紹介するキノコです。

 チンパンジーの陰茎( ペニス) は、人間のものよりも細長く先が尖っています。このキノコは形と大きさが勃起したチンパンジーの陰茎( ペニス) によく似ています。ただし、先端部分が真っ赤である点が異なります。あまり身はつまっておらず、スカスカした感じです。後述のように匂いもきついので、とても食べる気にはなりません。


写真1 地面から生えているところ


 調べてみると、日本のキノコの図鑑にもこれによく似たキノコが載っていました。キツネノエフデ(Mutinu sbambusinus)と言うようです。キツネノエフデも食用菌ではありません。「狐の絵筆」という名前ですが、細長く、先端に色がついているので、こんな名前になったのでしょうか。たしかに「陰茎( ペニス)」というよりも「絵筆」というほうが風雅ですね。


写真2 掘り起こしてみたところ


 日本のキツネノエフデとマハレのものが同種かどうかは素人の私には分かりませんが、おそらくキツネノエフデが属するスッポンタケ科の仲間であることは間違いないでしょう。この仲間は、その先端部分の表面に、グレバという悪臭のするヌメヌメしたものが付いています。グレバを持つキノコの仲間はいわゆる傘を持っていません。図鑑によれば、グレバの匂いでハエなどを集めて、ハエの体に胞子をくっつけて運ばせるとのことです。人間には悪臭でも、ハエにはきっと魅惑的な香りなのでしょう。

参考文献
今関六也・大谷吉雄・本郷次雄(編)2011. 『日本のキノコ―増補改訂版』山と渓谷社.

(なかむら みちお 京都大学)



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