第15回 センザンコウ

五百部 裕


 センザンコウ(Pangolin)は有鱗目(センザンコウ目)に属する動物です。この目はセンザンコウ科(Manidae)のみが含まれ、アジアに4 種、アフリカに4 種、生息することが知られています。アフリカに生息する4 種のうち、マハレにはサバンナセンザンコウ(Ground pangolin あるいはCapepangolin、学名はSmutsia temminckii)が生息しています。A Quarter Century of Researchin the Mahale Mountains: An overview (Nishida, 1990) のTable 1.1 では、学名がManis temminckii となっていますが、最近はこの種の属名はSmutsiaとするのが一般的です。サバンナセンザンコウは、東アフリカから南アフリカのサバンナや疎開林を中心に広く分布しており、IUCN(世界自然保護連合)のレッドリスト(絶滅のおそれのある生物のリスト)ではLeast concern に分類され、絶滅の危機には瀕していないと考えられています。


センザンコウ( 撮影 中村美知夫)


 センザンコウの特徴は、なんといってもほぼ全身を覆っている鎧のような「鱗」にあります。これは体毛が変化したものと考えられています。英名の「Pangolin」はマレー語が起源と考えられており、「丸まる者」という意味を持つそうです。これは、捕食者に襲われた際に堅い鱗を表にしてボールのように丸まることに由来しています。いずれの種も歯がなく、たいへん長い舌を使って、アリやシロアリ、ときには甲虫などを食べて生活しています。また、頑丈な爪は、アリやシロアリの巣を破壊するのに使われます。

 マハレに生息するサバンナセンザンコウは、頭胴長が40 〜 50cm ほどで、頭胴長とほぼ同じ長さの長い尾を持つ中型の哺乳類です。他の動物が掘った穴を巣として利用しており、基本的には単独生活を送っています。昼夜を問わず活動し、おもに地上で生活していますが、木に登ることもできます。また地上では、カンガルーのように尾を利用して「二足立ち」することもしばしばあるようです。1 回に1 頭の赤ん坊を出産します。赤ん坊は、生後一か月ほどすると母親の背中に乗ったり、尾の付け根に自らつかまったりして運ばれます。生後三か月ほどで離乳し、約2 歳で性成熟を迎えます。

 西アフリカのボッソウでは、サバンナセンザンコウに近縁なキノボリセンザンコウ(Phataginus tricuspis)をチンパンジーが捕食したという記録がありますが、今のところマハレでは、チンパンジーがセンザンコウを食べたという証拠は得られていません。例えばブルーダイカーという有蹄類(マハレの動物たち第1 回ブルーダイカーを参照)に関しては、マハレのチンパンジーは食べるのに、コートジボアールのタイ森林のチンパンジーは食べないということが報告されています。これは、タイ森林のチンパンジーがブルーダイカーを「獲物」と考えていないからと説明されています。もしかしたら、マハレのチンパンジーは、センザンコウの鎧のような姿に食べる気を失くし、彼らを獲物と考えていないのかもしれません。

(いほべ ひろし 椙山女学園大学)



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