第23回 ターニー

紹介者 中村 美知夫

 

 失礼ながら、ターニーはあまり可愛いメスとは言えません(写真1)。目に輝きがなく、なんとなく仏頂面、毛もボサボサしている。耳が切れているなどのはっきりした特徴もないので、慣れない人は識別にも苦労するようです。研究者から見れば比較的地味なキャラクターと言えるでしょう。


写真1 ターニー近影。2010 年1 月撮影。

 しかし、ターニーは最近の私のお気に入りの追跡個体の一人です。なんとなく波長が合うとでも言うのでしょうか、ターニーは私にとって「ちょうどいい」のです。少し説明しましょう。チンパンジーを追いかける際、対象個体がずっと動かなかったり、ずっと独りでいたりすれば、追跡自体は楽ですが、ちっとも面白くありません。逆に、ドタバタと動き回る個体は、データとしては面白くなりますが、追跡するのは体力的に大変です。この点でターニーは「ちょうどいい」。ほどよく動き、ほどよく休憩し、ほどよく他の個体と一緒になり、それでいて、要所要所で結構重要な振る舞いもしてくれる。

 ターニーは、2003 年9 月にM 集団に移入してきました。一年前に入ったカナートと同じくらいの年齢に見えたので、1991 年生まれと推定されています。名前は、当時毎年のようにマハレに来られていた谷井さん(珍聞2号を参照)に由来します。2008 年6 月に長女のテトを出産、2013 年5 月に次女を出産し、二人とも元気に育っています。かつては、シャイだったターニーもテトを生んだころから人間にも慣れてきて、最近では追いかけるのに苦労をすることはありません。

 チンパンジーの間でも、ターニーは明らかに「要領のいい女」です。オスのところに挨拶に行って逆にこっぴどくやられるメスも多い中、ターニーはそんなこともなく、ちゃっかりと毛づくろいをしてもらいます。若いオスたちも、なぜかターニーには敬意を払っているようで、出会うと熱心に毛づくろいをします(写真2)。


写真2 ワカオスのテディに毛づくろいされるターニー。2014 年1 月撮影。

 メスの間でも彼女の株は確実に上がっているようです。2008 年には、古株のメスであるグェクロ(珍聞7号)がターニーにパントグラントをしていて驚いた記憶があります。初産を迎えたばかりのメスが、老メスに挨拶されるというのは異例のことだからです。ターニーが何か特別なことをしたふうにも見えません。

 チンパンジー社会では、オス同士の順位争いや社会的駆け引きはよく目立つのですが、メスの社会交渉はそれほどあからさまではありません。何か特別なことをやっているようには見えないけれど、なんとなくうまくやっている。ターニーの「ちょうどよさ」が、じつはチンパンジーのメスの社会性を理解する鍵なのかもしれない、と思う今日この頃です。

(なかむら みちお 京都大学)



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