第2回 しっぽまで丁寧に掘るべし
— ブスワレ

中村 美知夫


 今回紹介するのはトングェ名で「ブスワレbusuwale(単数形:ルスワレlusuwale)」というキノコです。雨季に入ってしばらくして比較的暗い森林の林床に生えてくることが多いですが、群生していることはなく、多くは1本か2本くらいで見つかります。前回紹介したマレリアほど期間は限定されておらず、雨季の間はそこそこの頻度で見つかります。マハレの研究者にとってはおなじみのキノコではないでしょうか。

 ブスワレはシロアリタケ(Termitomyces属)の仲間で、幼菌の時はドングリの先っぽのような形のとんがった傘をしています。大きくなると20センチくらいにまで傘が開きますが、開いた傘の中心部がポチッと出ているのも特徴的です。傘の色は濃い茶色のことが多いですが、個体変異があるのか、やや薄い色をしたものもたまに見かけます。地上部分は高さ15〜20センチくらいでしょうか。

 シロアリタケの仲間の大きな特徴として、地中に長い「しっぽ」が伸びていることがあげられます。これは、柄の基部が根状に伸びたもので、このしっぽの先がシロアリのコロニーに連なって、シロアリと共生していると図鑑などには書かれています。シロアリタケの名前の由来です。

 ブスワレもまたトングェの人たちのよく知る食用キノコです。彼らは地上の部分を手に持って無造作に引っこ抜くか、パンガ(山刀)で切ってしまうので、だいたい途中でちぎれてしまいます(写真1)。しっぽは細く、収穫するにはパンガなどを使って慎重に掘り進む必要があります(写真2)。地上部の傘と柄だけでも十分に美味で食べがいがありますので、トングェの人たちわざわざ苦労してしっぽまで掘ろうとは思っていないようです。


写真1 しっぽの真価に気づく前に採取したブスワレ。トングェの人 たちに倣って、地上部だけを採取している。




写真2 しっぽまで掘り起こしたブスワレ。この細いしっぽが歯ごた えがあって旨いのだ。


 しかし、個人的にはブスワレで最も旨いのはこのしっぽの部分だと思うのです。しっぽは細いので、食べられる量としては少ないのですが、地上部よりも水分が少なく、味が凝縮しており、アワビにも似た独特の歯ごたえがあります。しっぽだけ何本分か集めて細く切り、きんぴらにでもすると相当の珍味だと思うのですが、残念ながらまだそれだけの量を一度に収穫できたことはありません。

 それにしても、ブスワレを見つけると一人黙々としっぽ堀りをしている変な日本人を、トングェの人たちはどう思っているのでしょうか。

(なかむら みちお 京都大学)


   


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