第13回 リス

五百部 裕


 リスの仲間は齧歯目(ネズミ目)リス科に属する動物の総称です。アフリカはもちろんのこと、オーストラリアと南極を除き、世界各地に分布しています。A Quarter Century of Research in the Mahale Mountains: An overview (Nishida, 1990) のTable1.1によると、マハレには2 種のリスが生息することになっています。1種はAfrican giant squirrel(Protoxerus stangeri: アフリカオオリス)、もう1 種はRed legged sun squirrel(Heliosciurus rufobrachium:アカアシタイヨウリス)です。いずれも、樹上に適応しアフリカのみに分布するXerinae(アラゲジリス亜科) Protoxerini(アブラヤシリス族)に属するリスで、2 種ともサハラ砂漠より南の森林地帯を中心に分布しています。IUCN(世界自然保護連合)のレッドリスト(絶滅のおそれのある生物のリスト)ではいずれもLeast concernに分類されており、一応絶滅の危機には瀕していないと考えられています。


写真 アブラヤシの実をかじるリス( 撮影 島田将喜)


 African giant squirrel の頭胴長は22〜40cm、体重は540〜1000g、Red-legged sun squirrelはそれぞれ20〜50cm、250〜400gで、中・大型のリスです。また2 種とも頭胴長と同じくらいの30cm 程度の長さの尾を持っています。いずれも胴体は茶褐色を基調とした色をしていますが、African giant squirrelは頭部が灰色になっています。一方、Red-legged sun squirrelは四肢の先が赤っぽくなっているのが特徴です。両種とも、尾は白と黒の輪が18 個ずつあるまだら模様になっています。

 2 種ともたいへん頑丈な顎と歯を持っており、堅い木の実を採食することができます。そのため、主食は果実やその中にある種子や仁です。African giant squirrelを対象としたガボンでの研究では、彼らの食べ物の90%近くは果実や種子だったそうです。これら以外の主な食べ物は葉やキノコですが、ときには昆虫などの動物性のものも食べることがあるそうです。リスの仲間は単独生活を基本としています。昼行性で、夜は木の洞などを利用した巣で寝ます。リスの仲間には地上生活に適応したグループもいますが、この2 種は樹上生活にたいへんよく適応し、樹冠を敏捷に移動することができます。

 マハレで、中・大型の哺乳類のセンサスをしているとよくリスを見かけました。ただ残念ながら、体色が似ており、人間を恐れてすぐに逃げてしまうために、野外でこの2種を見分けるのはたいへん難しかったです。また長年のチンパンジー研究において、彼らがリスを食べたという記録はわずかしかありません。そして正確にはどの種を食べたのかはわかっていません。センサスの結果、この2種のリスがかなりの密度で生息しているのは確かです。たぶんチンパンジーによるリスの狩猟頻度が少ないのは、チンパンジーにとってリスはあまり魅力的な「獲物」ではないのか、あるいは彼らにとって樹上を敏捷に動きまわるリスを捕まえるのは難しいのかのいずれかなのでしょう。またマハレでは、齧歯目をはじめとした小型哺乳類の研究はあまり行われてきませんでした。もしかしたらこの2種以外のリスがマハレに生息しているかもしれません。

(いほべ ひろし 椙山女学園大学)


   


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