Pan Africa News 19(2)の記事から

GRASP会議:2012パリ
(by 松沢哲郎) オリジナルの英文記事へ

 大型類人猿の保全については、国際霊長類学会、国際自然保護連合(IUCN)、そして大型類人猿保全パートナーシップ(GRASP)などを含め多くの組織がある。GRASPは、政策立案者への働きかけや、グリーン・エコノミー戦略の推進、世界規模での法の施行調整の改善、といった大型類人猿の保全にかかわる提唱力において優れている。私は、科学委員のメンバーとして、今年パリで開かれたGRASPの会議に出席した。この会議はGRASPとしては二度目のもので、11月6日から8日の日程でおよそ150名が参加した。会議では、各地の大型類人猿がおかれている現状について多くの情報交換がおこなわれ、生息地の減少、食肉やペットとしての狩猟捕獲と違法な国際取引、人獣共通感染症によるリスクなどの主要な脅威について話し合われた。詳しくは、http://www.un-grasp.org/を参照されたい。


イヨンジ ・コミュニティ・ボノボ保護区:コンゴ民主共和国に新設
(by 坂巻哲也、フィラ・カサレボ、マシュー・ボラア・ボカンバ、リンゴモ・ボンゴリ) オリジナルの英文記事へ

 2012年4月、コンゴ民主共和国にイヨンジ・コミュニティ・ボノボ保護区が設立された。地域住民の要望に対して環境団体や日本の研究者が支援を行い、地元のNGOが中心となって活動してきた成果である。ボノボの人付けも進んでおり、イヨンジ個体群とワンバ個体群の文化比較も興味深い研究テーマである。ただ問題もある。地域住民はタンパク源として森の動物を狩猟しており、保護区設立前には周辺地域から移入してきた住民による妨害もあった。森林資源を管理するには代替の生計手段が必要があり、現在は森林モニタリングやパトロールを行っているが、今後は観光や研究などを展開し、地域住民主導の活動を行っていく必要がある。


マハレ最高齢メスの死亡および野生チンパンジーの寿命について
(by 中村美知夫、西江仁徳) オリジナルの英文記事へ

 マハレ最高齢(推定52歳)のメスであるカリオペの消息が2012年4月を最後に確認されておらず、おそらく死亡したものと推定される。カリオペは確認されているだけで5頭の子供を産み、うち4頭が成熟年齢まで達した。最後の15年間は子供を産まず、最後の子を育てていた5年間を除いても10年間の繁殖後の余生を過ごしたことになる。これまで報告されている長寿個体は、ゴンベとボッソウで53歳、タイでは46歳で、いずれもメスである。ただし、最初に観察された時の年齢推定がどこまで正確であったのかという点には注意が必要である。マハレとボッソウには現在でも50歳前後の個体が4、5頭ずついるため、今後より長生きする個体が出てくる可能性は十分にある。


マハレの野生チンパンジーには投擲の際に利き手がない
(by 西田利貞、WCマックグルー、LF マーシャント) オリジナルの英文記事へ

 投擲(物を投げること)は、人類進化において重要であったと考えられており、二足歩行や利き手、そして言語と共進化したとする議論もある。マハレでチンパンジー16個体による計556回の投擲を調べた結果、利き手があったのは4個体のみで(うち3個体が右利き)、それ以外では利き手がなかった。右投げが多いか左投げが多いかでも集団レベルで有意な違いはなかった。投擲全体では、54%が右で46%が左であった。この結果は、飼育下では集団レベルで右投げであるという先行研究とは異なる。少なくとも、チンパンジーは飼育下でも野生下でも投擲をおこなうので、投擲が二足歩行や言語と共進化したのだと考える必要はない。野生下の結果を信じるならば、投擲と利き手と関連づける必要もなさそうである。  


マハレの野生チンパンジーの未成熟個体に見られた「太鼓」叩き行動:音を出すのを楽しむ遊び?
(by 松阪崇久) オリジナルの英文記事へ

 野生チンパンジーが森の中で土製の容器(甕・鍋)を見つけ、太鼓のように叩いて遊ぶ事例を2例観察した。これらの容器は、マハレが国立公園となる以前にトングェの人たちの集落があった所に残されていた。2頭の未成熟個体がそれぞれ単独で「太鼓」叩きをおこなった。容器を転がす、向きを変える、上に乗るなどしながら、その側面や底部、口縁部を手の平や足の裏、かかとなどを用いて数分間にわたって叩き続けた。物体のさまざまな扱い方を試す「物遊び」であると同時に、大きな音の響きとその変化を楽しむ「音遊び」としての側面を持つ行動であることが示唆された。以上より、音楽の起源と進化に関する考察をおこなった。  


タンザニア、マハレ山塊国立公園内におけるチンパンジーのベッド寿命の地域間比較
(by 座馬耕一郎、マサユケ・マケレレ) オリジナルの英文記事へ

 チンパンジーのベッドが崩壊するまでの日数(ベッド寿命)は、個体数推定に必要な情報である。マハレでは乾季に森林で作られたベッドが調べられており、それを補足するため、雨季に森林と疎開林で作られたベッドについて調べた。雨季と乾季で比較したところ、ベッド上の葉がなくなるまでの期間は乾季の方が短かったが、ベッドの枝組みが崩れるまでの期間は雨季の方が短かった。また疎開林より森林の方が、ベッドの枝組みが崩れるまでの期間が短かった。以上から、ベッド寿命を決める要因はさまざまであると考えられ、チンパンジーの個体数推定をする際には、慎重にこの値を用いる必要がある。  




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