第10回 ヤマアラシ

五百部 裕


 ヤマアラシ(英名はPorcupine)は、齧歯目(ネズミ目)ヤマアラシ上科に属する動物の総称です。旧世界(ユーラシアとアフリカ)に生息するヤマアラシ科と、新世界(南北アメリカ)に生息するアメリカヤマアラシ科に二分されます。そしてアフリカには3種が生息しています。A Quarter Century of Research in the Mahale Mountains: An overview (Nishida, 1990) のTable 1.1では、マハレにはアフリカフサオヤマアラシ(Brush-tailed porcupine:Atherurus sp.)とアフリカタテガミヤマアラシ(Crested porcupine:Hystrix galeata)の2種が生息することになっていますが、この情報は現在の分類では正確ではありません。Field guide to African Mammals(Kingdom, 2003)やIUCN(世界自然保護連合)によると、マハレにはアフリカタテガミヤマアラシ(Crested porcupine:Hystrix cristata)とケープタテガミヤマアラシ(South African porcupine:H. africaeaustralis)の2種が生息するとされています。前者はおもに赤道の北、後者はおもに赤道の南に分布しており基本的には分布域は重複していませんが、タンザニアを中心とした東アフリカでのみ分布は重なっています。一方、Kingdom(2003)などではマハレにいないとされているアフリカフサオヤマアラシ(Atherurus africanus)ですが、『タンガニイカ湖畔―自然と人』(伊谷純一郎・西田利貞・掛谷誠,1973)には、この種の写真が掲載されており、最近、マハレの動物相をより詳しく明らかにすることを目的として森の中に設置したセンサーカメラにもそれらしい姿が写っていました。どうもマハレにはアフリカにいる3種すべてが生息している可能性があります。


写真 夜行性のヤマアラシ


 「タテガミ」ヤマアラシの2種は、体長が70〜100センチメートル、体重は10〜25キログラム程度、「フサオ」の方はそれより一回り小さく、いずれも「ネズミ」にしては大型です。3種とも夜行性で、植物の根や球根、地上に落下した果実などの植物性食物を主食にし、他の動物が掘った穴や洞窟、あるいは自ら掘った穴を巣にしています。母親とその子どもを中心としたグループで一つの巣を利用していますが、巣の外では単独で活動することが多いとされています。IUCNのレッドリスト(絶滅のおそれのある生物のリスト)では3種ともLeast concernに分類されており、一応絶滅の危機には瀕していないと考えられています。

 夜行性であるため、ヤマアラシを直接見ることはほとんどありません。私もマハレでヤマアラシを見た経験はありません。しかし、コンゴ民主共和国やコンゴ共和国で調査したときには、「食卓」で見る機会が何度かありました。とくにコンゴ共和国では、田舎のレストランで供されていることが多く、実際に食べてみるとたいへん美味しい動物でした。写真はセンサーカメラで撮影された1枚です。その特徴からタテガミヤマアラシの1種だと思われます。こうした装置によって、マハレに生息する夜行性の動物の生態も徐々に明らかになっていくかもしれません。

(いほべ ひろし 椙山女学園大学)


   


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