第1回 巨大キノコ — マレリヤ

中村 美知夫


 今回紹介するのは現地のトングェ語で「マレリヤmaleliya(単数形:リレリヤlileliya)」というキノコです。

 マハレでは10月くらいから雨が降り出し、11月頃には本格的なドカ雨がやってきます。マレリヤは、最初のドカ雨で地面が柔らかくなった後に、疎開林に生えてきます。生えるのはこの時期だけのようで、乾季や雨季の中後半に見たことはありません。

 マレリヤは傘が開くと30センチくらいになるマハレ最大級のキノコです(写真1)。小さいうちは卵のような形で、白い膜に被われています。そこからコッペパンのような色のつやつやした傘が頭を出します(写真2)。幼菌が卵型をしていること、柄にスカート状のつばがあること、柄の付け根につぼがあることなどはテングタケ属(Amanita属)のキノコに典型的な特徴です。『Tanzanian Mushrooms(タンザニアのキノコ)』(Härkönen et al. 2003)という本で調べた限りでは、おそらくAmanita loosiiという種であると思われます。テングタケ属の仲間は日本にもたくさんあり、有名なところでは毒々しい紅色に白い斑点があるベニテングタケや猛毒のドクツルタケ、そして食用のタマゴタケなどが含まれます。



写真1 傘の開いたマレリヤ。生えた後にさらに雨が降ったため水の重みで倒れているものもある。一番右側のキノコはスカート状のつばが分かりやすい。




写真2 マレリヤの幼菌。最初はつぼにくるまれているが、次第に頭を出す。この段階ではつばは傘の下側に張り付いた状態であるため外からは見えない。左端に置いてあるのは30センチの定規。


 1970年代にトングェの食生活を調べた掛谷誠さんの論文(掛谷 1974)によると、彼らは9種類のキノコを食用としており、マレリヤもその1つとして掲載されています。調査助手に聞いたところ、他の食材と一緒にスープに入れて食べるそうです。私は、まずはニンニクの香りを移した油でジャッと炒めて、塩と醤油で味付けして食べてみました。炒めるとだいぶ水分が出て縮みます。でも、もとが大きいので食べ応えは抜群です。傘が開いたものはより水分が多く、歯ごたえも少し悪くなります。炒めるならば幼菌のうちがよいみたいです。残りはスープに入れてみましたが、なるほどいいダシが出ます。

 ちなみに今のところマハレのチンパンジーがキノコを食べたという観察例はありません。コートディヴォアールのタイやウガンダのンゴゴのチンパンジーはキノコを食べるようですので、ひょっとするとこれも文化的違いの一つなのかもしれません。

(なかむら みちお 京都大学)


   


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