Mグループに2頭のチンパンジーが新加入!

西江 仁徳


 2012年10月に、マハレMグループに新しいメンバーが2頭加わりました。前回移入があった2010年は、計5頭の新加入があった「当たり年」でしたが、翌2011年は移入が見られなかったので、およそ2年ぶりの「ルーキー獲得」になります(スカウトしたわけではありませんが…)。しかも、今回は同一月内、わずか10日の間隔で、相次いで2頭が移入してきました。このような短期間に相次いで移入が起こることは珍しく、かなりの「大当たり」といえます。

 最初の移入個体は、2012年10月9日に確認されました。ひどいやぶの中をくぐり抜けてチンパンジーを追跡していた同僚の松本卓也さん(京都大学)と私は、ふと見上げた蔓の上に見慣れない個体を発見しました。現地の調査助手たちと一緒に確認したところ、新入り個体であることがわかりました。若いメスで、体はあまり大きくなく、右耳が部分的に切れていて、少しとぼけたような顔つきが特徴的でした。人間の観察者に対しては比較的よく慣れていて、それほど遠くない距離から観察することができました。 しばらく様子を見て、Mグループに定着したのを確認したあとに、彼女に名前をつけようと考えていたところ、10日後の10月19日にさらに新しい個体が移入してきたことがわかり、当初かなり混乱することになりました。

 2頭目の移入個体は、前日Mグループの多くの個体が遊動域の南端の山に登って、翌日に中心部に戻ってきたところで発見されました。樹上で多くの個体が採食しているのを何気なく観察していた私は、右耳の切れた若いメスを見つけ、上記の「10日前に移入してきた新入り」だなと思っていたところ、ふと目を転じると少し離れた別の樹上にまさにその「10日前に移入してきた新入り」がいるのを発見して、ひどく混乱しました。まさか2頭目の移入個体がいるとは思いもしなかったからです。

 まだ入ってきたばかりで人間にあまり慣れておらず、近づきすぎると逃げてしまうので、ビデオカメラのズーム機能を使ったりしながら、調査助手と一緒に何度も確認した結果、「10日前の新入り」とは違う「別の新入り」だとわかりました。こちらも若いメスで、しかもまぎらわしいことに「10日前」と同じく右耳が部分的に切れており(よく見たら切れ方が微妙に違うのですが、最初はそこまで気がつきませんでした)、体は「10日前」と比べると細身で、顔つきは「気の強そうな」「引き締まった」印象がありました。

 最初はこの新入り2頭を移入の順番に「ナンバー1」「ナンバー2」と番号で呼んでいましたが、どちらもすんなりMグループのメンバーにも人間にも慣れて定着したように見えたため、それぞれ「Devota」(現地トングェの女性の名前)、「Genie」(アラジンのランプの精霊)と名づけました。


写真1:新入りのDevota。とぼけた表情が印象的





写真1:新入りのGenie。Devotaと同じく右耳が切れているが、顔つきはかなり違う


 私にとってはMグループへの移入を確認したのは今回で2度目(3個体)となります。野生のチンパンジー社会では、メスが性成熟を迎える年頃になると集団間を移籍することが知られており、今回観察されたことも特に珍しいわけではないのですが、それでも実際に突然それまで見たことのない新しい個体を発見したときの驚きと興奮は、何度経験してもとても刺激的で新鮮なものです。一方で、DevotaやGenieのようなチンパンジー側の視点で見たとき、いったいこの「集団間の移籍」という現象がどのように経験されているのか、というのはまだまったく解明されていない謎でもあります。それまで行ったことのない場所へ行き、それまで接触のなかったチンパンジーたちと出会い、生活を共にすること。さらにそこにはそれまでほとんど見たこともなかった「人間」がいて、毎日自分たちのあとをついてくること。こうしたことは、おそらく彼女たちの人生(チン生?)をゆるがすような、まったく新奇なこととして経験されていることでしょう。その経験の実相を、彼女たちのうかがい知れぬ表情の奥に探っていくことも、これからの私たちの課題のひとつです。

(にしえ ひとなる 京都大学)



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