第10回 カワウソ

五百部 裕


 カワウソの仲間は、前回紹介したラーテル同様、食肉目(ネコ目)イタチ科に属しています。A Quarter Century of Research in the Mahale Mountains: An overview (Nishida, 1990)のTable 1.1によると、マハレには2種のカワウソが生息することになっています。このうち、Cape clawless otter(Aonyx capensis)と表記されている種は、最近ではAfrican clawless otterと呼ばれることが多くなっています(図1)。またもう1種は、Spotted-necked otter(Lutra maculicollis)です(図2)。いずれもサハラ砂漠より南のアフリカ大陸のほぼ全域に分布していますが、African clawless otterの方は、コンゴ盆地には生息していません。またAfrican clawless otterは水があればどのような環境でも生息できるのに対し、Spotted-necked otterの方は魚が豊富でも澱んだ水の川や湖には生息しておらず、透明度の高いきれいな水の渓流に生息することが多いとされています。IUCN(世界自然保護連合)のレッドリスト(絶滅のおそれのある生物のリスト)では2種ともLeast concernに分類されており、一応絶滅の危機には瀕していないと考えられています。


図1 African clawless otter (Jキングドン1997 “The Kingdon Field Guide to African Mammals,” p234-236)




図2 Spotted-necked otter (Jキングドン1997 “The Kingdon Field Guide to African Mammals,” p237)


 African clawless otterの頭胴長は70〜90cm、体重は12〜34kg程度で、カワウソの仲間では大型です。一方Spotted-necked otterは、それぞれ、60-65cm、4-6.5kg程度で、一回り小さくなっています。いずれも頭胴長と同じ程度の長い尾を持っています。また2種とも灰褐色を基調とした体色ですが、African clawless otterは喉から胸にかけて白くなっています。そしてその名の通り、彼らの爪は痕跡的で水掻きも発達していません。それに対してSpotted-necked otterの爪や水掻きはよく発達しています。

 African clawless otterの主食は淡水性の蟹です。またカエルや淡水魚、小型の哺乳類、鳥類、貝類なども食べることが知られています。一方、Spotted-necked otterの主食は淡水魚やカエルとされていますが、彼らもまた、蟹や昆虫、貝類も食べるとされています。そして2種とも、イタチ科の多くの動物同様、目立つ場所に糞を残す性質を持っています。カワウソの仲間は単独生活を基本としていますが、母子による小さな集団を作って生活していることもあります。また餌が少ないような環境下では、20頭を超えるような大きな集団を作ることもあるようです。2種とも、雌は2か月ほどの妊娠期間ののち、最大3頭の子どもを出産します。

 残念ながら私は、マハレでカワウソを見たことがありません。しかし、カンシアナ基地に近いカシハ川の上流部では、比較的簡単にカワウソを見ることができます。事実、ここでよく水浴びをする同僚の研究者によると、何度もカワウソを見かけているとのことでした。こうした動物を思いがけず観察できるのも、フィールドワークの楽しみの一つでしょう。

(いほべ ひろし 椙山女学園大学)


   


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