おめでとう!
ブネングワ・ハミシの結婚式

松本卓也



 私たちのチンパンジー調査のアシスタントをしてくれているブネングワ・ハミシさんが結婚しました。彼は調査アシスタントの古株だったハミシ・ブネングワさんの息子で、26歳の若手です。私とは年齢も近く、彼の地元の村で一緒にお酒を飲むこともあります。結婚式は2011年6月18日、19日の二日にわたって、国立公園近くの村で行われました。当時キャンプにいた私も出席したので、その時の様子をお伝えしようと思います。

 結婚式初日のお昼頃。タンガニーカ湖に浮かぶ大きな木船が、青色の旗を船首に掲げて、騒々しいまでの太鼓のリズムや鈴の音や、それに負けない歌声を乗せてこちらへやってきます。その大きな木船が、花婿であるブネングワを乗せて、花嫁の住む村に向かっていることは、私もその木船に乗り込んでみてわかりました。男たちは子どもから大人までみな、スーツやイスラミックな白装束に身を包み、各々の思う正装をしているようでした。女性たちはカラフルな衣装に身を包み、太鼓と鈴の音に合わせて歌っていました。

 花嫁の村が近づき、女性たちはもう叫ぶような声で歌っています。賑やかな船が、そろそろ岸に着こうかというとき、少し丘になった場所から花嫁の村の女性たちが緑の旗を掲げ、歌いながら浜へとやってきました。青色の旗を掲げた私たち(ブネングワの村の人たち)は、緑の旗の集団と互いに歌いながら浜辺で合流し、そのまま、歌いながらゆっくりと結婚式の会場を目指して丘を上っていきます。私の拙い語彙力ではほとんど歌詞を聞き取ることができませんでしたが、花嫁の村の女性たちが歌う、「ようこそ、お客さま」という歌詞は聞き取ることができました。異なる村同士、歌で挨拶を交わしていたのかもしれません。そんな歌の中心、花婿のブネングワは白装束にイスラム帽子の出で立ちで、少し硬い表情で歩いていました。なんだかいつもと雰囲気が違うので、緊張しているのかな?と思って見ていたら、たまたま目が合い、心配そうな私の顔が可笑しかったのか、ブネングワは少しだけニヤリといつもの悪戯っぽい笑顔を見せてくれました(写真1)。


写真1:結婚式会場へ向かう花婿ブネングワ(中央)と彼の姉妹(手前)


 青ビニールを張って御座を敷いた会場に200人近い村人が集まり、式典が始まりました。会場中心に設置されたマイクで司会が経典らしい本を読み上げ、式は進行していきます。「ほら、タクヤ、写真を撮って!」「こっちから撮って!」と、私はすっかりカメラマンだと認知され、あちこち忙しく動き回りました。宣誓文を読むブネングワは、いつもより少し大人びて見えました。最後は、花婿が花嫁の家まで迎えに行き、室内で新郎新婦の記念撮影。ドレス姿の花嫁とブネングワはとても幸せそうでした。

 二日目はブネングワの住む村に場所を移し、ウェディングケーキの入刀やダンスパーティが行われました。初日と違い、みなそこまで堅苦しい恰好をしておらず、その様子は日本の披露宴に近いかもしれません。私も出し物の一つとして、アシスタントの2人とダンスショーを披露しました(写真2)。ぶっつけ本番でしたが、お客さんもブネングワ自身もかなり喜んでくれたようでした。その日の晩は、音楽が止むことなく村に響き続け、次の日の朝まで盛大にパーティが行われました。


写真2:ショータイム


 ブネングワは5年近く調査のアシスタントとしての修行を積み、2011年から常雇いとして私たちの仕事を手伝ってくれています。今年は彼の父親であるハミシ・ブネングワが亡くなるなど悲しいニュースもありましたが、新しい家族のためにも、きっと今まで以上に頑張って仕事に取り組んでくれると思います。

(まつもと たくや 京都大学)


   


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