マハレの町や村に贈り物

マハレの森と湖にはチンパンジーをはじめとして、ヒョウやヤマアラシ、カバなど、さまざまな動物が暮らしています。そしてこの自然はマハレ周辺の町や村に住む人々の協力無しでは守っていくことができません。そこでマハレ野生動物保護協会ではマハレの近くに住む人々の暮らしを応援する活動を続けています。今回、GRASP-Japan(大型類人猿保全計画日本委員会)の資金援助を得ておこなった2つの地域での活動をご紹介します。 (編集部)

カトゥンビでの活動 (報告者 座馬耕一郎)

 マハレの北にあるカトゥンビ村には日本大使館の援助によって建設された小学校や診療所があります(地図)。その小学校の先生と診療所のドクターから文房具や薬の援助をしてほしいという手紙が届きました。そこで今年の8月、手紙に添えられていたリストを手にキゴマという町の店を回り、段ボール箱12箱分を手に入れ、去年新調されたファイバーボートでタンガニーカ湖を南下し、村に運びました。8月は乾季で、湖には特有の南風が吹いており、船旅は8時間かかりました。向かい風で波が荒れ、体はかなり濡れましたが、贈り物はシートにくるまれ無事でした。

 湖岸にある村に着くと小学校の子どもたちが「待ってました」とばかりにやってきて、荷物を丘の上の小学校まで運んでくれました。子どもたちは小さくてもみんな働き者です。記念写真を撮ろうとするとみんなかっこいいキリッとした顔できめるので、「できれば笑ってほしいな」とヤラセのようにお願いしました。どうやら子どもたちは段ボール箱の中身を知らなくて最初は「大荷物を運んだぜ」というキメ顔だったようです。でも中からボールペンやノートが出てくると自然に笑顔になっていました(写真1)。小学校の後には、歩いて数分のところにある診療所に薬を届けることができました(写真2)。


写真1 ボールペンの箱を見つけて笑顔の子どもたち




写真2 ドクターに薬を預けました


 別の日のことですが、カトゥンビ村出身でマハレ山塊国立公園でチンパンジーのガイドをしている若者のピーターさんがこう言っていました。「村に小学校ができて、僕はそこで読み書きができるようになった。勉強できたおかげでガイドの職に就くことができた。みんな日本からの支援のおかげだ。」村の人々の暮らしのお手伝いをすることが、森の動物たちの暮らしを良くする。少し胸が熱くなりました。

(ざんま こういちろう 林原類人猿研究センター)




カリヤでの活動 (報告者 島田将喜)

 カリヤという町は、西部タンザニア、マハレ山塊国立公園の南に位置するタンガニーカ湖畔の交通・商業の要所で、国立公園が設立される以前から多くのトングウェの人々が暮らしてきました(地図)。湖岸沿いに暮らすトングウェの人々にとっては、カトゥンビの町がマハレ公園の北の拠点なら、カリヤは南の拠点といえるでしょう。これまでのところ、公園南のカリヤに対しては支援活動が手薄でしたので、私は自分のマハレ公園内でのチンパンジー調査の合間を見て、カリヤの小学校への学用品を届け、また公園の南側のトングウェの集落での教育活動を視察することを目的とした活動を行うことにしました。


 2011年9月6日に二人のアシスタントを伴い、小学校を訪れました。私は現地に行くまでまったく知らなかったのですが、カリヤの中心部には、二つの異なる小学校(カリヤ小学校とタンブシャ小学校)が、同じ校庭を挟んで向き合う形で隣接しています。小学校に着いたのは朝9時半ころだったのですが、試験期間中で授業はないとのことでした。それでも数十名の生徒たちが集まってくる中、二名の校長先生との面談をし、私たちGRASP-Japanの活動目的を口頭、および文書でお伝えしました。

 タンザニアの地方の小学校ではどこでも同じような状況ですが、カリヤ小学校では7名の先生が710名の生徒を、タンブシャ小学校では5名の先生で600名あまりの生徒を相手に教育に当たっているそうです。先生一人につき100名以上の生徒を相手にするわけですから、大変な仕事だと感じました。

 今回私が持ちこんだ支援物資は、チョーク、ノート、ペン、コピー用紙です。特にノートとペンは子どもたちに公平に与えてほしいと先生たちにお願いしました。子どもたちは私から物資を受け取ると、本当にいい笑顔をみせてくれ、とても感謝されかえって恐縮してしまいました(写真)。彼らの勉学に少しでも役立ってくれることを希望しています。


写真 校長先生と学生たちに支援物資を渡す


 私自身がこうした目的で小学校を訪問するのは今回が初めてで、事前に小学校の状況などについて、断片的な情報しか掴んでおりませんでしたが、次回訪問する際には、十分な援助物資を持ちこみ、また小学校の先生たちと協力してチンパンジー保全に興味を持ってもらえるような特別授業をしてみたいと思っています。

(しまだ まさき 帝京科学大学)





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