追悼のことば

ジェーン・グドール

 

 西田利貞博士が亡くなったことを知り、私は深い悲しみに沈んでおります。私がトシを知って40年以上が経ちます。彼の名前はこれからもずっと、私にとってはマハレ山塊のチンパンジーと結びついて思い出されることでしょう。彼は丁寧な調査を通して、これらチンパンジーたちの生きる姿とパーソナリティーについて、私たちに豊かな描写を与え続けてくれました。



写真 グドールさん(左)と西田さん(右)。2008年11月、リーキー賞受賞記念行事にて。
©The Leakey Foundation


 トシはフィールドで疲れも知らず、何千時間もの直接観察を重ね、調査活動が一年中継続して維持されるべく、精力的な研究者のチームを作り上げました。これらの研究者たちは、チンパンジーの社会生活や生態について、さまざまな側面を研究したのです。こうした情報はすべて、日本語で共有されただけでなく、英語に訳されて、世界中の霊長類学者にも利用できるものとなりました。彼はまた、「パン・アフリカ・ニューズ」を創刊しました。この雑誌は、すべてのチンパンジー研究者に対して、自分たちの行う科学的活動及び保全活動について短い論文を投稿することを奨励し、多くの異なる地域や学術分野からの情報をとりまとめるフォーラムとなっています。

 西田利貞博士の死は、日本の霊長類学の長い歴史にとって大きな節目となります。彼は生涯を通じて、私たちのチンパンジーに対する理解に多大の貢献をしました。そして、マハレはもちろん、アフリカの他の場所でも、彼に啓発された多くの若い人が彼の足跡に続きました。しかし、寂しく惜しまれるのは、科学者としてのトシだけではありません。私は友人としてのトシがいなくなったことも寂しく思うことでしょう。彼が催してくれたすてきな集会や小さなディナーで、格式ばらずにリラックスしてチンパンジーの話を共有することができたことを寂しく思い出すことでしょう。本当に、私にとって彼のいない日本は想像しにくいと感じています。ご家族、そして、彼の多くの友人のすべての方に、私の心からのお悔やみをお伝えしたいと思います。   2011年6月12日ジェーン・グドール(翻訳:保坂和彦)


   


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