追悼 ハミシ・ブネングワさん―葬儀に参列して

飯田恵理子

 


写真1 ハミシ・ブネングワさん(1999年頃:撮影・座馬耕一朗氏)。


 「今朝、ハミシ・ブネングワが亡くなった」との知らせがあったのは2010年9月22日のことでした。まだ働き盛りの彼との、あまりにも突然の別れでした。  私が初めてマハレの調査に入った2009年にお世話になったのが彼でした。森のこと、動物のこと、何も分からない私にひとつひとつ丁寧に教えてくれました。彼なしでは何もできなかったでしょう。こんなに早く逝ってしまうなんて、残念でなりません。
 ハミシ・ブネングワさんは、私の知る限り調査助手の中でマハレの動植物について最も詳しい人でした。若い頃のチンパンジーの追跡力は、ずば抜けていたとも聞いています。何事にも慌てることなく対応し、彼の周りにはゆったりとした不思議な空気が流れているようでした。



写真2 調査の合間のひととき(2007年・撮影・伊藤詞子氏)。


 連絡を受けたその足で彼の村までボートを出し葬儀に参列しました。彼の家は村の湖岸沿いにあり、村人たち100人以上が葬儀に参列していました。日本とは異なり、人々は色鮮やかな普段着のまま参列します。また、親族の方々も笑顔で楽しそうに会話をしていたため、お祭りのような賑やかな印象を受けました。葬儀は、男性は家の外、女性は家の中に分かれておこなわれます。外では集まった男性たちがゲームや賭けごとをして過ごし、女性たちは参列者にふるまう食事の支度をおこなっていました。ご馳走をお腹いっぱい食べて楽しむのが習慣だそうです。



写真3 カンシアナ・キャンプの改修作業中のひととき。倉庫から出てきたヘルメットを被っている(2006年・撮影・花村俊吉氏)。


 しかし、こういった雰囲気も家の中に入ると一変します。狭い6畳ほどの部屋に30人以上の親族の女性たちが所狭しと座り、悲しみに明け暮れていました。遺体が家から運び出されるまでは、女性たちで別れの歌を歌い見守ります。遺体が運び出されると女性たちは、周りを気にせず泣き叫び続けます。
 悲嘆にくれながらも、三日三晩盛大に楽しんで、賑やかに死者を見送る素敵な葬儀でした。私も彼を偲んで泣き、そして葬儀を楽しみました。彼と一緒に過ごせた時間はわずかでしたが、本当に多くのことを教えてもらいました。

 心よりご冥福をお祈りいたします。
 ハミシ、どうもありがとう。

(いいだ えりこ 京都大学)


   


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