岩場に棲息する変な動物 ハイラックス

飯田 恵理子

 

 ハイラックスは、1科3属からなるイワダヌキ目(Hyracoidea)に属する哺乳類です。姿かたちはリスやウサギのような齧歯目に似ていますが、実はゾウ目やジュゴン目に近い仲間です。日本の動物園でも飼育されていますが、あまり知られていない動物なのではないでしょうか。



写真1 岩の上で休むハイラックス。写真はウガラの個体(著者撮影)。


 一般的にハイラックスは体温調節が苦手で、日中を日向ぼっこや日陰で休む変温動物のような生活をしています。また手の構造がゾウに似て自ら穴を掘ることができないため、自然にある岩場や木々の巣穴に依存しています。  マハレには、3属のうちブッシュハイラックスの1属のみが棲息しています。習性や骨格は他の2属の中間的特徴をもちますが、大きさは3属のなかでも一番小さく頭胴長は約50 cmとウサギくらいの大きさです。野生では主に東アフリカに分布し、岩場で数頭から30頭ほどの群れを構成して棲息しています。
 彼らの独特の習慣として、同じ場所に糞や尿をすること(ため糞)が知られています。実際に見に行って驚いたのですが、多いところだと膝まで埋まるくらい糞が積もっているところもありました。ため糞は、縄張りの保持や繁殖期のコミュニケーションなどの役割があるといわれていますが、詳しいことは分かっていません。この「ため糞」のためか、古くから他の動物とはちょっと違った人との関わりがあります。コンゴやタンザニアの人々の話では、ハイラックスのお肉は美味しくないそうで、食用として捕獲されることはないのですが、その代わりに糞や尿が使われているのです。尿は南アフリカなどでは、腎臓や膀胱の薬として用いられています。その名も「ダッシーピス」(現地名 ハイラックス:ダッシー + 尿:ピス)。また糞は、銃の火薬として使われています。タンザニアの西部にある一部の村などでは、現在も糞から作った火薬を使っているそうです。火薬作りのコツは、糞を3日煮込むことです。



写真2 ため糞場。一面に糞が落ちている(著者撮影)。


 2009年に私が初めてマハレを訪れた際、タンガニイカ湖の湖岸沿いに広がる岩場で調査を開始しました。最初の調査では直接観察など程遠く、見られたのはお尻や走り去る残像ばかりでした。
 もともと警戒心のとても強い動物で、マハレでは人に慣れていません。それに加え、あのダックスフンドのような胴長短足からは想像もつかない速さで岩場を逃げます。また、調査路を作るため巣穴周辺を荒らしてしまったことも観察できなかった要因でした。こうした反省を生かし、2010年の2度目の調査ではほんの数十分でしたが観察に成功しました。写真1のように、こちらの様子を警戒しながら岩の上に座っていました。私もゆっくりとですが成長しています。今後も、この変な動物ハイラックスを追いかけていきたいと思います。

(いいだ えりこ 京都大学)


   


第16号目次に戻る次の記事へ