第7回 ライオン

五百部 裕

 

ライオン(Panthera leo)は、食肉目(ネコ目)ネコ亜目ネコ科ヒョウ属に属しています。ライオンは、かつてはアフリカ大陸だけでなく、アラビア半島からイラン、そしてインドまで広い範囲に分布していました。しかし現在では、アフリカ大陸を除くと、インドのギル保護区とその周辺地域にわずかな個体群が残っているだけです。またアフリカ大陸でも、かつては熱帯多雨林の中央部と非常に乾燥が激しい地域を除いた広い範囲に生息していましたが、今では、保護区や国立公園の中にしか生息していないのが現状です。アフリカに生息する個体群とインドに生息する個体群は亜種で区分されています(アフリカ:Panthera leo leo、インド:Panthera leo persica)。そして、IUCN(世界自然保護連合)のレッドリスト(絶滅のおそれのある生物のリスト)では、アフリカ大陸に生息する亜種はVulnerable(絶滅危惧U類)、インドに生息する亜種はEndangered(絶滅危惧TB類)とされています。



写真:ケニアのマサイマラ保護区の雌ライオン(著者撮影)


アフリカに生息する亜種の場合、体長は雄で最大2.5メートルほど、雌で最大2メートル弱、体高は1メートル弱、そして体重は雄で最大250キログラムほど、雌で200キログラム弱と、現生では最も大きなネコの仲間です。雌雄とも全身、褐色を基調とした体色です。そしてよく知られているように、成長した雄には「たてがみ」が発達しています。一方で、生まれて間もない赤ん坊は「ヒョウ柄」に覆われていますが、成長とともにこの柄は消えていきます。


中型から大型の哺乳類をおもな獲物にしています。しかしこうした獲物が手に入らない場合には、小型、ないしはもっと大型の哺乳類を獲物としたり、ときには爬虫類や昆虫などを食べることもあります。彼らは、数頭の雌と1・2頭の雄、そしてその子どもたちで形成される「プライド」と呼ばれる集団を作って生活しています。一般的に雌同士の結びつきが雄同士よりも強いため、プライドは「母系」と称されることもあります。しかし雌雄とも、生まれたプライドを出て放浪生活を送り、他のプライドへ加入することが知られています。妊娠期間は100日ほどで、1回に2-6頭の子どもを出産します。


チンパンジーM集団の遊動域の中心であるマハレのカソゲ地区には、いつもライオンがいるわけではありません。そもそも人を襲うこともあるライオンがいるなら、安心してチンパンジーなどの調査を行うことはできません。しかし1989年には、少なくとも2頭のライオンがカソゲ地区に来たことが知られています。そしてこのときには、少なくとも4頭のチンパンジー(2頭のおとな雌と2頭のわかもの雄)が、ライオンに殺されたと考えられています。それは、ライオンの糞から、チンパンジーの骨や毛が見つかったからです。この調査結果が得られるまで、チンパンジーがライオンに殺されるとは考えられておらず、チンパンジーの「群れ」の特徴、例えば個体数や離合集散性は、採食戦略から説明できると考えられていました。しかし、前回も記したように、コートジボアールのタイ森林では、ヒョウによるチンパンジーの捕食が観察されています。こうして見てくると、チンパンジー社会の進化を考える上で、捕食者の存在も無視できないと言えるでしょう。

(いほべ ひろし 椙山女学園大学・人間関係)


   


第15号目次に戻る次の記事へ