五百部 裕

第6回 ヒョウ




ヒョウ(Panthera pardus)は、食肉目(ネコ目)ネコ亜目ネコ科ヒョウ属に属しています。ヒョウ属には、ヒョウ以外に、次回取り上げるライオンやトラ、ジャガー、ユキヒョウが含まれます。

ヒョウは、アフリカ大陸からアラビア半島、そしてユーラシア大陸の南西部から東端のカムチャツカ半島までたいへん広い範囲に分布しています。アフリカ大陸でも、かつてはサハラ砂漠を除いた各地に分布していましたが、現在では地中海沿いの北アフリカや南アフリカでは見られなくなってしまいした。亜種の区分についてはさまざまな意見があり、26に分けられるという考え方もある一方、IUCN(世界自然保護連合)のレッドリスト(絶滅のおそれのある生物のリスト)では9亜種に分類されています。この場合、アフリカ大陸に生息するヒョウは一つの亜種とされます。ちなみにこのリストでは、ヒョウという種はNear Threatened(準絶滅危惧種)と位置づけられていますが、中近東やアジアに生息する亜種ではCritically Endangered(絶滅危惧TA類)やEndangered(絶滅危惧TB類)とされるものもあります。

体長は雄で最大2メートル弱、雌で最大1.4メートルほど、体高は1メートル弱、そして体重は雄で60キログラムほど、雌で50キログラムほどの大型のネコです。背中や四肢の上部は、黒と茶色からなるいわゆる「ヒョウ柄」で覆われ、顔や四肢の先、お腹などは黒の小さな斑紋で覆われています。この美しい模様の皮が目当てで、多くの個体が殺されているのは皮肉なことです。

肉食獣ということで、アンテロープ類などを捕食して生活していると考えられていますが、彼らは、げっ歯類(ネズミの仲間)などの小型の哺乳類や鳥類、節足動物などもけっこう食べています。また木登りが得意であるという習性を利用して、樹上生活を送るサル類を食べることもあります。事実マハレでは、彼らの糞の中からアカコロブスなどのサル類の毛や骨がかなりの頻度で見つかっています。繁殖のために雌雄がペアを形成する時期を除いては、基本的に単独生活を送っています。雌は1回に最大6頭の子どもを、深い茂みの中や洞穴などで出産します。赤ん坊は3ヶ月程度で離乳し、2歳ごろ性成熟を迎え、それと同時に母親の元を去って独立します。そして20歳程度まで生きると考えられています。

マハレでは、チンパンジーやサル類の観察中にしばしば彼らの声を聞くことができます。カンシアナキャンプ周辺でもときどき目撃することができ、また痕跡も多数見つかります。ときには彼らの死体を発見することもあります(写真)。このようにマハレでは、ヒョウは珍しい動物ではありません。



1995年8月、カンシアナ・キャンプの近くで乗越皓司さん(当時上智大学)が見つけたヒョウの死体の頭部.

そして1984年には、チンパンジーが洞穴にいたヒョウの母子を攻撃し、ヒョウの子どもを殺したという事例すら観察されています。一方コートジボアールのタイ森林では、ヒョウによるチンパンジーの捕食が、チンパンジーの個体群動態を考える上で無視できない数に上るという報告もあります。チンパンジーやサル類の生態を考えていく上で、ヒョウの研究は興味ある情報を提供してくれると言えるでしょう。

(いほべ ひろし 椙山女学園大学・人間関係)


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