五百部 裕

第5回 カバ




ウガンダのクイーンエリザベス国立公園のカバ. マハレでは、このように近づいてカバを見る機会はほとんどありません(写真提供:布施未恵子)。


  カバ(Hippopotamus amphibius)は、偶蹄目(ウシ目)カバ亜目カバ科カバ属に属しています。現生の動物で「カバ」という名前がつくものにもう1種、コビトカバ(Choeropsis liberiensis)という動物がいますが、こちらは同じカバ科でも属が違うとされています。ちなみにコビトカバの学名として「Hexaprotodon liberiensis」と表記されているものがありますが、最近の分類では「Choeropsis」の方が正しいとされています。

おとなのカバの体長は約3メートル、体高が1.5メートル前後、そして体重は雌で最大2.5トンほど、雄では最大3トンを越えることもある大型の哺乳動物です。全体的には青みがかった灰色の体色をしていますが、下腹部や目や耳、口の周囲はピンク色をしています。背中に点在する分泌腺から血のような色をした分泌液を出します。この分泌液には、抗菌作用や日焼け止め、さらには水分の蒸発防止や「フェロモン」としての働きがあると考えられています。

かつてはナイル川河口のデルタ地帯から喜望峰近くまで、水場と彼らの餌となる草があるという環境ならばアフリカ大陸のどこにでも生息していました。しかし最近は彼らの生息に好適な環境が急速に失われ、それにともない分布域も減少しています。こうした事実を反映してIUCN(世界自然保護連合)がまとめた最新版のレッドリスト(絶滅のおそれのある生物のリスト)ではVulunerable、すなわち絶滅危惧U類と位置づけられ、絶滅の危惧が増大している種と考えられています。

彼らは草を食べて生活しています。一般的には昼間は集団で水の中で休息し、夜になると陸に上がってそれぞれの個体が別の場所で単独で草を食べるという生活を送っています。昼間作る集団の大きさは、水場の広さや流れの速さなどによって変化し、ときに100頭を超える大きな集団を作ることもあります。同じ集団に属するおとな雄の間には明確な優劣関係があり、この関係はディスプレイ行動によって決まるとされています。ディスプレイ行動とは、2頭の雄が互いに下顎をぶつけ合うというちょっと変わったものです。優位な雄が雌との交尾を優先的に行うようです。そして雌とその子どもたちからなる集まりが集団の核をなしており、他の個体間の結びつきはさほど強くありません。約8ヶ月の妊娠期間ののち、通常は1頭、ときに2頭の赤ん坊を出産します。動物園では50年以上生きた個体が知られていますが、野生状態での寿命はこれより短いと考えられています。

マハレ国立公園、とくにその中でもチンパンジーを集中的に観察しているカソゲ地区では、残念ながらカバを目にすることは滅多にありません。その中で、唯一カバを見ることができるのが、人付けされたチンパンジーM集団の遊動域の南限に近いルブルング川周辺です。カソゲ地区を流れる川の多くは乾季になると干上がってしまいますが、この川は1年を通じて豊富な水量を誇っています。それが、カバがこの川の周辺に生息している理由でしょう。そしてこの川の周辺では、カバが夜な夜な草を食べに陸に上がってきた証拠と考えられる「カバ道」を見ることもできます。

(いほべ ひろし 椙山女学園大学・人間関係)


第13号目次に戻る次の記事へ