カンシアナキャンプの灯火にはいろいろな虫が飛んできますが、ケラほど日本のものとほとんど変わらない虫は珍しいように思います。日本のケラはGryllotalpa orientalisで、タンザニアにいるケラの種類はG. Africana。日本のケラとタンザニアのケラは同属で、日本のケラの研究者にマハレで採ってきたケラを見せたところ、あまりの違いのなさに驚いていました。ケラの種類は世界でも3属400種ほどで、イナゴの種類が世界で600属2700種あるのと比べると、ケラは世界的にみてもシンプルな形態をもつ仲間のようです。

その理由はケラが直翅目(バッタの仲間)のなかでも独特のニッチを開拓していることと関係しています。ケラは、土の中に穴を掘って生活しているのです。ケラを初めてみた人でも、ケラ独特の風貌(足の先がシャベルのようになっている)に気づくとたちまちケラが識別できるようになるでしょう(写真)。



カンシアナキャンプの灯火に飛んできたケラ

ケラは英語でモグラコウロギと呼ばれており、英語圏では、「土を掘る虫」という行動から呼び名が決まっていることがわかります。日本語ではどうでしょうか。漢字でケラは"螻蛄"と書きます。「螻」はいく節にもなってつらなる音、「蛄」かたい虫という意味をもちますから、日本人は、ケラが土の中で「ジー」という音を出すという性質から"螻蛄"と呼んでいると考えられます。タンザニアではなんと呼ばれているのでしょうか?残念ながら現地のスタッフにケラの呼び名を尋ねたことがないのでわかりません。今度マハレに行ったときにでも聞いてみようと思います。    


冒頭でも述べたように、私の、マハレに生息するケラとの出会いは、カンシアナキャンプの灯火に飛んできた時でしたが、ある時期の地面にたくさん掘られた穴は、実はケラの仕業だったのではないかと今になって気付きました。マハレにはゲンゴロウやタイコウチなどきれいな川にしか生息しない貴重な昆虫がたくさん見られます。マハレ調査の私の楽しみはチンパンジーに会うことだけでなく、そういった日本ではあまり見られなくなった昆虫たちを観察することでもあります。



(ふせ みえこ 京都大学)


   


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