第12回 トッツィー

紹介者 西田利貞

   


トッツィーが息子のテディをくすぐっているところ。


  かつて、ワンソンボは、長女カット、長男ベンベ、次女ブンデ、次男ボンゴ、三女ビンティを擁し、Mグループ最大の家族を誇っていた。娘が2人とも婚出しなかったのが大きな家族ができた理由である。ボンゴが1989年にライオンに食べられてから不幸がつぎつぎとこの家族を襲った。末娘ビンティが1990年4月に病死、ブンデは年頃になってから長患いして婚出しないまま1991年末に亡くなった。1994年1月には老衰のワンソンボが行進から取り残され動けなくなったのを保坂和彦君等が最後まで看取った。カットは1995年11月に姿を消し、それを追うように長男ベンベが1995年暮れを最後に消えた。彼は親友のトシボとともに姿を見せなくなった。あまり順位争いに興味を示さなかったベンベと、トップの座を目指してまっしぐらのトシボは好一対だった。1996年に起こった多数のチンパンジーの同時消失のときであり、私はトシボをリーダーとする集団分裂が起こったのでないかと思ったが、分裂群は見つからず、これはまったく謎のまま残っている。

  最後の生き残りがカットの長女トッツィーである。トッツィーも母親や叔母のブンデに倣ったかのように、お嫁に出なかった。彼女は脚が遅く、行列の中にいても、どんどん他の個体に追い抜かれてハラハラさせられる。彼女をターゲットに選んだ松阪崇久君が、「追跡していると彼女の足を踏みそうになる」とぼやいていたことがある。もちろん、人によく慣れているせいでもあるのだ。彼女はチャウシク、ワソボンゴ、その娘のアビとともに、Mグループで最もよく人に慣れたチンパンジーの一人で、おそらく最も人間を信用しているチンパンジーであろう。彼女の親友には、アコとンコンボがいる。アコはトッツィーとほぼ同年齢のメスであるうえに、二人とも孤児だったので仲良くなったようだ。年長メスのンコンボとなぜ仲良しになったのかはわからない。

  トッツィーは茫洋としているようだが、なかなかどうして機を見るに早く、若い雄のハンビーとサファリに出かけるなど、油断がならない。一方では第二位だったドグラの求愛をしりぞけるなど好みははっきりしている。通常はおっとりしているのだが、若者メスが転入してきたりすると、枝を振り回したり、地団太を踏んだりして、オスのように威嚇する。肉も大好きで、所有者の雄が分配しなくても、いくら彼女を威嚇しても、粘りに粘ってコロブスザルの最後の毛皮をもっていくのはトッツィーであることが多い。

   

  ダスティン・ホフマンの扮するトッツィーは女の振りをする男だが、チンパンジーのトッツィーは男の振りをする女である。赤ちゃんを何度か死なせたので、息子テディはかわいくてならないらしい。声をたてて笑いながら遊ぶ姿をよく見かける。


(にしだ としさだ (財)日本モンキーセンター)



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