ご存じの方も多いと思いますが、マハレの気候は春夏秋冬ではなく、雨季と乾季に分かれています。雨季の始まりはだいたい11月くらいですが、そのころのチンパンジーたちは集まって遊動をしており、賑やかな毎日が続きます。

  その時期に賑やかなのはチンパンジーだけではありません。マハレの森に棲む昆虫たちも羽化の時期を迎えます。マハレでよく見かけるこのセミは(左下の写真2枚)、ウガダニイニイゼミ属の一種で、アフリカオオニイニイ(Ugada limbalis)かその近縁種であると思われます(布施健吾氏による推定)。このセミは名前のとおり体長が約3cmと大きめで、チー、ジーという二段階に分かれる音が特徴です。このセミが大量に発生している時期には、森じゅうにこのセミの鳴き声がこだましています。チンパンジーの声を聞くために丘のうえで座っていると、このセミの音が頭の中に蔓延し、気が遠くなるようでした。



 


写真上下とも、アフリカオオニイニイかその近縁種。



  私はチンパンジーだけでなくニホンザルの調査も経験したことがありますが、ニホンザルはセミやバッタなどさまざまな昆虫を食べます。チンパンジーはどれだけの種類の昆虫を食べるのだろうと、わくわくしながら観察していましたが、チンパンジーがよく食べる虫はアリやシロアリなど10種程度で、ニホンザルが40種以上の虫を食べるのに比べると少ないことがわかりました。

  もしマハレにニホンザルがいたら、このニイニイゼミを捕まえて食べまくっていることだろうと思いますが、チンパンジーにとってこのニイニイゼミはあまり魅力的な食べ物ではないようで、食べるところは一度も見かけませんでした。

  チンパンジーだけでなく虫たちもマハレの森には欠かせない重要なメンバーです。今後も、チンパンジーとともに森に棲む昆虫を少しずつ紹介していきたいと思います。



(きよの みえこ 京都大学)


   


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