夜のカンシアナ中村 美知夫 私たちが調査基地としているカンシアナ・キャンプには、チンパンジー以外にもいろいろな動物がやってきます。昼間にやってくるのはサルの仲間やリスなどが多いのですが、多くの哺乳動物は夜行性です。夜のカンシアナにはどんな動物が来るのでしょうか。前号で松阪さんがキャンプにやってきたヤマアラシの紹介をしていますが、今回は私が2008年の調査期間中に出会った夜の動物たちを紹介しましょう。 オオギャラゴ オオギャラゴについては、五百部さんが『マハレ珍聞』の8号で紹介していますが、カンシアナにいれば、毎晩その声を聞かないことはないというくらいの常連客です。キャンプに生えているアブラヤシの樹に実を食べにやってくるのです。声には馴染みがあるのですが、姿を見るのはなかなか大変です。普通のヘッドライトでは、暗闇に光る二つの目がようやく見えるくらいなのです。 今回、ちょっと明るめのライトを持っていって照らしたところ、灰色の個体(写真1)と黒色の個体(写真2)を確認できました。図鑑などを見ると、だいたい灰色の個体の絵や写真が載っています。ただ、種内で体色の変異があるらしいので、おそらく黒いのは黒化個体なのでしょう。同じアブラヤシの樹の上で、灰色個体と黒色個体がかすかな声を交わしながらなにやらやり取り(おそらく求愛行動)をしていました。ちなみに大声で鳴くのが確認できたのは黒い個体だけでした。 写真1: オオギャラゴの灰色個体。 写真2: オオギャラゴの黒色個体。結構尻尾が太い。 コモンジェネット ジェネット(写真3)は、食肉目・ジャコウネコ科の小型動物です。ヒョウ柄の体と太い縞々のしっぽが特徴的です。これまでに、ジェネットの毛皮を見たことはあったのですが、生きているジェネットは今回初めて見ました。 ジェネットもキャンプ近くのアブラヤシの樹にやってきます。アブラヤシの樹を照らしていると、目が光っており、最初はギャラゴかと思いましたが、よくよく見るとジェネットでした。ライトで照らすとまぶしそうにしていますが、逃げる気配はありません。ギャラゴのように大声で鳴かないし、動くときにも大きな音を立てないので、普段はあまり気付かないだけで、結構頻繁にカンシアナにやってきているのかもしれません。 写真3: ジェネット。 ヒョウ ヒョウ(次ページ写真4)は食肉目・ネコ科の動物で、アフリカからユーラシア大陸まで比較的広く分布しています。まれに訪れるライオンを除けば、チンパンジー調査がおこなわれているカソゲ地域でもっとも大きな肉食獣です。 キャンプで食後に保坂さんと歓談していると、なんだか白っぽい塊が10メートルくらいのところを動いていくのが目に入りました。けっこう大きいにも関わらずほとんど足音はしません。急いでライトで照らすとヒョウでした。ライトで照らされると少し離れていきましたが、とくにこちらを怖がっているという感じではありませんでした。何枚か写真を撮っていると、音もなくNew KUAPEハウスの裏側に消えていきました。 写真4: ヒョウ。残念ながら顔を背けているところしか撮影できなかった。 見えている柱は、New KUAPEハウス。 今回の調査期間中にはやって来ませんでしたが、季節によってはこれ以外にマングースやヤブイノシシ、シベットなどもやってきます。夜のカンシアナもなかなかにぎやかなものです。 (なかむら みちお 京都大学・野生動物研究センター) 第12号目次に戻る | 次の記事へ |