カトゥンビ小学校を訪問

保坂 和彦



  カトゥンビ小学校はマハレ野生動物保護協会の活動によって誕生した唯一のタンザニアの公立小学校です。そもそも国立公園になる前のマハレの住民が多く暮らすカトゥンビ集落の人々から、現地の初等教育環境を改善してほしいという要望が多かったことから2000年に建設計画を立ち上げ、ホセア・カユンボ会長、西田利貞副会長が在タンザニア日本大使館に協力を要請。草の根無償資金(当時)の供与が決まり、日本人と現地の人々との共同による学校づくりが始まり、2003年に竣工(『マハレ珍聞』第4号を参照)。タンザニア政府から教師が派遣され、カトゥンビでの公的な初等教育が始まりました。

  私は資材購入から基礎工事が始まった頃まで、故上原重男先生とともに、この事業に現地参加したことがあったため、完成後の小学校を訪問することを希望していましたが、結局5年間果たしていませんでした。2008年8月24日、初めての訪問を実現しました。日曜日のため、子どもたちの姿を見ることはできませんでしたが、教室に一歩足を踏み入れると、黒板に残った丁寧なスワヒリ語の板書、算数の教材として使われたまま床に散らばっている棒きれなどが、ここが生きた学びの空間であることを語ってくれました。



 

写真: 机・椅子が不足しているだけではなく、床面のセメントが剥がれていたり、

黒板が傷だらけになっていたりする教室が目立つ。



  まだ20代と思われる若い校長先生のジュマ氏からは、さまざまな悩みを聞くことになりました。まず、椅子と机が足りない。故川中健二・発子ご夫妻が運営したワトト基金の援助や住民の自助努力により増やしてきましたが、まだ机の置かれていない教室の方が多い状況。高学年を除き、児童の大半は床に座って授業を受けている。さらに根深い問題は、教師が足りないこと。約800人の生徒数に対し理想的な教員数は22人だそうですが、目下4人。大きな理由は新任教師がカトゥンビのような僻地への赴任を嫌うことのようです。タンザニアの公立学校には教員の異動がほとんどないという背景もあるようです。校長は「職員住宅が増えれば、僻地勤務を受け入れる新任教師も増えるだろう」と考えていました(現在、職員住宅は1軒)。すでに机の問題については追加の対策が講じられつつありますが、今後、マハレ野生動物保護協会がこの学校にできる支援内容を考えたり、住民の自助努力を促すための戦略を考えたりしていく必要があると思われます。

  解決すべき問題は山積していますが、カトゥンビに初等教育が始まって5年。少なからぬ卒業生をセカンダリースクール(日本の中高等教育にほぼ相当)に進学させるなど成果も出てきています。子どもたちはチンパンジーのいる国立公園を見学したがっているとのことで、校長は教育目的の入園許可を求めて当局と交渉しているところだそうです。来年は授業の行われている日に訪問して、子どもたちの話も聞いてみたいものです。



(ほさか かずひこ 鎌倉女子大学)


   


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