第11回 クリスティーナ 紹介者 西田利貞 クリスマス(手前)と遊ぶクリスティーナ(奥)。クリスティーナはクリスマスの右手の指をくわえている。
1987年のことだから、20年以上もたってしまった。高崎浩幸君(現在、岡山理科大学教授)は、日本学術振興会の海外特別研究員としてタンザニア野生動物研究所(TAWIRI)に籍をおいて、奥さんとともにマハレで研究を続けていた。その12月にMグループに嫁入りしたので、高崎君はクリスマスに因んでクリスティーナと名づけた。彼女は中肉中背で、頑健である。ヒトと違って、チンパンジーのメスは子どもを生まないとオスにもてない。しかし、彼女は子持ちでないギャル時代に大もてにもてた。発情時、一度に5頭ものオスが彼女につきしたがって離れなかったので、ついに、彼女は頭を地面にぶつけるなど離乳期の子どものような行動を示したことがある。実は彼女は癇癪もちで、いくら物乞いしても肉を分配されないときは、泣き叫んだうえ、息を詰まらし、ひきつけを起こし、手がつけられなくなったものだ。しかし、息子ができたあとは、癇癪も数が減った。その息子には、母親に因んでクリスマスという立派な名前を進呈した。 いかつい顔をしており、私が好きなタイプの顔ではなかったが、クリスマスをターゲットに追跡を重ねているうちに私はクリスティーナが好きになった。彼女は息子とレスリングするのが大好きで、夢中になって、上になり下になる。母子ともども笑い声を発するのを見るのは楽しい。彼女は息子が遊び友達と喧嘩をして大騒ぎになっても落ち着いており、干渉しない。しかし、息子が若者の雄に乱暴にもてあそばれたりしているときは、じっと見守っており、いざとなれば飛び出していく用意はしている。若者の雄が一人前の大人になるには、すべての大人の雌に挨拶させなければならない。若者のカドムスが大人になる前に最もてこずったのがクリスティーナだった。 小柄だが頑健な体格の持ち主であるクリスマスの下に、やはり小柄で活発な妹が生まれ、私はクザンチッペと名づけた。そうこうするうちに、クリスティーナは順位の高い雌となり、おもな行動圏もMグループの縄張りの中心からやや南という最も安全な場所を確保したようだ。小さい子どもと母親の間の対角毛づくろいを初めて見たのはクリスティーナをシンシバ谷の上流に追跡したときだった。私が彼らと長い時間を過ごしたお陰である。 (にしだ としさだ (財)日本モンキーセンター) |