ヤマアラシがやって来た!

松阪崇久


 今年4月まで約5か月間、チンパンジーの調査のためにマハレに滞在してきました。昨年発行のPan Africa News(Vol. 14, No. 2)でチンパンジーとヤマアラシの遭遇事例について報告しましたが、今回の滞在中、一頭のヤマアラシが調査キャンプ(カンシアナ・キャンプ)に頻繁に出没しました。ヤマアラシとはどうも縁があるようです。

 ヤマアラシがやってくるのは夜、たいてい、夕食を終えたあとに一人でぼーっと物想いにふけるなどしている時です。「ワサワサワサワサ・・・」という音が近づいてくるのが聞こえるので、ヤマアラシの到来はすぐにわかります。音のする方にそっと近づいてみると・・・白黒しましまの針の山。体長1メートル近い、かなり大型のヤマアラシです。ワサワサという音は、ヤマアラシが歩くときに背中やお尻の針を揺らしている音のようです。


 

写真1:コンクリートの床を舐めるヤマアラシ。



 何をしに来ているんだろうかと観察していると、キャンプ内のコンクリートの床を舐めているのが確認できました(写真1)。どうやら、床の特定の箇所に付着した塩類を舐めに来ていたようです。一度、3メートルくらいの距離まで近づいて観察したことがあるのですが、彼(彼女?)はしばらくの間こちらに気が付きませんでした。針でしっかり防御しているからか、意外と鈍いようです。こちらに気が付いたあとも素早く走り去るのではなく、背中の針をたて、何度か立ち止まってこちらを振り返りながらワサワサと歩き去りました。

 これまでの調査では、ヤマアラシと遭遇することはほとんどありませんでした。たまに夜のキャンプでヤマアラシと遭遇することがありましたが、場所は決まってトイレでした(写真2)。頻繁にあることではないのですが、カンシアナ・キャンプのトイレで夜にヤマアラシと鉢合わせしてビックリするという経験をされた方は少なくないようです。「ヤマアラシはほんまにトイレが好きなんやなぁ」と、マハレの研究者同士で盛り上がることもあります。木の柵で囲われたトイレがヤマアラシの安全な休憩場所になるという面もあるのかもしれませんが、おそらく塩類を摂取するために、尿の匂いにひかれてやって来るのでしょう。


 

写真2:トイレにやって来たヤマアラシ。



 マハレにはチンパンジー以外にも、不思議な生き物、魅力的な生き物がたくさん棲んでいます。今後、そういう話も紹介していけたらと思っています。



(まつさか たかひさ (財)日本モンキーセンター)




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