チンパンジーが野鳥を食べた!!

藤本麻里子


 チンパンジーがアカコロブスなどの霊長類をはじめ小型の哺乳類を捕獲し、その肉を食べることは比較的多くの人に知られるようになってきました。しかし、チンパンジーが鳥を食べることはあまり知られていないのではないでしょうか。実は私もマハレで実際にチンパンジーが鳥を食べるのを見て驚きました。チンパンジーがトビ(Milvus migrans)を食べたのです。写真は2005年11月1日にルビコン(RC)というメスのコドモがトビを持って木から降りてきたところです。RC自身が捕まえたのか、誰かが捕まえて食べた後、棄てられたものを拾ったのかは不明ですが、このとき3羽のトビがチンパンジーに捕食されました。しかし、チンパンジーが元気な成鳥を捕食することはこれまで観察されておらず、弱って休んでいた鳥を捕食した例が少数観察されているのみです。恐らく今回もそのような例だと思われます。トビの肉食でも、哺乳類の肉食の場合と同様、周囲の個体が集まってきて鳥を持った個体をじっとのぞき込んだり、手を伸ばして肉を分けてもらったりという行動が観察できました。でも、哺乳類の肉食とは違い、コドモやメスが鳥を食べていても、オトナオスが強奪したり、激しいディスプレイをしたりすることはなく比較的静かに肉食がされていました。時折コドモが鳥の体を放り投げてディスプレイの真似事などをしているのも観察されました。


 

トビを右手に持って木から下りてきたルビコン(RC)。



 2005年8月2日にもオトナメスのトッツィ(TZ)が鳥の巣から雛を捕って食べるのを観察しました。そのときTZは息子のテディ(TD)と2人で移動中でした。TZは樹上で何やらガサガサと動いています。そして、TZが何かを持って木の上を移動していると、2羽の白と黒の翼を持った成鳥がバタバタと大きな羽音を立てながらTZめがけて突進してきます。調査助手の人が「巣から雛を捕ったから、親鳥が怒って追い払おうとしているんだ」と教えてくれました。実際、木から下りてきたTZの手には白い羽毛に覆われた鳥の雛が握られていました。それをおいしそうに食べていると、息子のTDがやってきて肉をねだっていました。この鳥の正式な種名は現在同定作業中です。このように、決して頻度は高くありませんが、チンパンジーは弱った鳥や巣にいる雛も捕食するのです。しかし、主にオスを中心とした集団で樹上のアカコロブスなどの霊長類を追い詰めて捕獲する、騒々しくて派手な狩猟とは異なり、鳥の狩猟は単独もしくは数個体が?み取りして行なう比較的穏やかな狩猟だと言えます。

  「チンパンジーが鳥を食べるなんて知らなかった」と調査助手の人に話すと面白いエピソードを教えてくれました。まだマハレが国立公園になる以前には、この地域で生活していた人々が飼育している鶏やヒヨコがチンパンジーによく食べられたらしいのです。オトナのオスはヒヨコを捕まえると丸ごと口に入れ、一口で平らげたそうです。ヒヨコにはちょっと気の毒ですが、チンパンジーにとってはおいしいおやつが食べられてラッキーといったところでしょう。今では国立公園内で家禽を飼育している場所はなく、おやつを食べる機会もありませんが、時には野鳥を捕まえて食べるのです。地上を歩いているホロホロチョウ(Numida meleagris)の傍を通りかかると、チンパンジーはじっと様子をうかがい、助走をつけて突進したりしますが、まず捕まえることはできません。でも、私が見たTZ親子の事例のように、単独または親子でいるメスは人知れずどこかで鳥の巣から雛を捕食しているのかもしれません。



(ふじもと まりこ 滋賀県立大学)




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