チンパンジーの交尾・繁殖戦略


メスの繁殖生理

 メスのチンパンジーには月経周期があり、その周期の長さは32日ほどです。チンパンジーには性皮(性器の周りの皮膚)があり、排卵近くになると、下の写真のように、性皮がピンク色に大きく腫れます。
 この性皮が腫れるという現象は、ヒヒなど他の霊長類にも見られますが、ヒトに近い類人猿ではチンパンジー属のみに見られる特徴です。32日ほどの周期の中で、性皮が腫れているのは12日程度で、この期間に交尾を行ないます。排卵は、性皮が腫脹している期間が終わるあたりで起こり、その期間は順位の高いオスが多くの交尾を行ないます。


チンパンジーのオスの繁殖成功

 チンパンジーなど複数のオスが群れにいるような霊長類では、メスは複数のオスと交尾をするため、観察だけでは誰が父親かはわかりません。そこで、糞などから抽出したDNAを用いた親子鑑定が行なわれています。右上図は、マハレM集団で1999年から2005年に生まれた10頭のチンパンジーの父親をDNA判定した結果です。高順位オス、とくに第1位オスが多くの子どもを残していることがわかりました。
 第1位オスが多くの子どもを残すことは、他のチンパンジーの群れでも知られていますが、第1位オスの繁殖成功の割合は群れごとで異なることがわかってきました。その割合は、群れの個体数が増えるほど、減少します(右下図)。それは、メスやライバルとなるオスの数が増えると、第1位オスが独占的に交尾しにくくなるためだと考えられています。

チンパンジーの交尾パターン

 チンパンジーには、3つの交尾パターンが知られています。
① 機会的交尾: メスが様々なオスと交尾する
② 所有行動:1頭の順位の高いオスが独占的に交尾する
④ コンソート: オスメスのペアが長期間、他の群れのメンバーから離れて行動しながら、交尾をする
 このうち、マハレのチンパンジーではコンソートは稀で、機会的交尾が多いことが知られています。また、第1位オスには所有行動がよく見られます。



文責:井上英治