チンパンジーの遊動と離合集散チンパンジーの遊動域チンパンジーは集団を形成しますが、そのメンバーが利用する土地を、集団の「遊動域」と呼びます。その大きさは集団によってさまざまですが、マハレM集団のメンバーが16年間に利用してきた遊動域は、27.4km2です。より乾燥した地域のチンパンジーは、もっと大きな遊動域をもちます。マハレM集団の遊動域(1994年〜2009年) F:北の隣接集団の遊動域との重複域 N:標高はそれほど高くないが起伏が激しい W:比較的平坦で落葉性ミオンボ林が拡がる M:比較的平坦で半常緑林が拡がる E:山塊に向けて標高が急激に高まる S:南の隣接集団の遊動域との重複域 Cited from Nakamura et al. 2013 Primates 54(2):171-182, ©Japan Monkey Centre and Springer Japan チンパンジーの離合集散チンパンジーは、ニホンザルをはじめとする他の多くの霊長類とは異なり、集団のメンバーが群れで遊動しているわけではなく、母親とその未成熟な子どもを除き、全てのメンバーが出会いと別れを繰り返します。2頭の個体が別れたあと再会するまでの時間はさまざまで、数分後に再会することもあれば、数日あるいは数週間もの間、再会せずにいることも普通にあります。別れた個体どうしの距離も、数kmに及ぶことがあります。こうしたグルーピングの様態を「離合集散」と呼びます。集団のメンバーが「離れていることが可能である」という点が、彼らの社会の大きな特徴です。 離合集散の過程で、チンパンジーは、メンバー構成や持続時間のさまざまな、一時的な「パーティ」を形成します。これまで多くの調査地で、このパーティの構成やサイズに影響を与える生態学的・社会学的な要因が検討されてきました。 マハレのチンパンジーの遊動と離合集散の季節性マハレのチンパンジーの遊動と離合集散のパターンは、季節に応じて大きく変わります。試しに1頭のチンパンジーのあとについていってみましょう。彼らの好物である果実がたくさん実る季節には、次から次へとさまざまな個体と出会っては別れ、多数個体とゆるやかにまとまって(その拡がりは1kmを超えることもあります)遊動域全体を遊動するような日が続きます(集合季)。果実が少ない季節には、少数個体のみと、あまり出会いと別れも繰り返さずに、遊動域の一部を遊動するような日が続きます(分散季)。こうした季節変化や集合季に形成される大きな「遊動集団」は、マハレ以外ではほとんど報告がないため、マハレのチンパンジーの特徴のひとつかもしれません。チンパンジーの離合集散と声を介したやりとりチンパンジーを観察していると、遠くから別のパーティの声が聴こえてくることがあります。とくに、1〜2kmもの範囲に届く、「パントフート」と呼ばれる大きな声が目立ちます。そんなとき、チンパンジーもじっと聞き耳を立て、場合によってはその場にいる皆でパントフートをコーラスしつつ鳴き返したり、自分たちとは別のパーティが鳴き返さないかと耳を澄ませたりします。たとえ鳴き交わしたとしても、そのパーティどうしが合流するとは限りませんし、声が聴こえてきても気にせず採食を継続したり、その場にいる個体たちと毛づくろいを継続したりすることもままあります。彼らの離合集散の動態に、鳴き返さずにいることも含めて、こうした声を介したやりとりが密接にかかわっていると考えられます。立ち上がって声を聴く 遠くの声に耳を澄ませる パントフートのコーラス 文責:花村俊吉 |