チンパンジーはヒトとどこまで近い?


チンパンジーはヒトにもっとも近い種だと言われています。なぜ、そう言えるのでしょうか?
ここでは、類人猿の系統関係について紹介したいと思います。

(Q) チンパンジーはサルなの?

(A)霊長類ですが、サルではありません
 英語でサルはmonkey、類人猿はapeと呼ばれます。つまり、サルと類人猿とは区別されています。このため、チンパンジーはサルではありません。
 余談ですが、映画「猿の惑星」(Planet of the apes)は、「類人猿の惑星」という邦題がいいと思います。


(Q) ゴリラ、オランウータン、ボノボとの関係は?

(A) 下の系統樹をごらんください
 ヒト、チンパンジー以外の大型類人猿として、ゴリラ、オランウータン、ボノボがいます。小型類人猿として、テナガザルがいます。これらの種の関係は、右の系統樹のようになっています。チンパンジー・ボノボと比較して、ゴリラ・オランウータンは、もっと以前にヒトと分岐しました。ボノボもヒトにもっとも近い種であるので、「進化の隣人」と呼べるでしょう。


(Q) チンパンジーが進化したらば、ヒトになるの?

(A) ヒトにはなりません
 ヒトとチンパンジーの共通祖先から、ヒトとチンパンジーが進化しました。この進化の過程で、ヒトはヒトらしさ、チンパンジーはチンパンジーらしさを獲得しました。このため、チンパンジーはヒトの「原型」ではなく、独自の特徴を持った種なのです。
 同様にニホンザルが進化したとしても、ヒトにはなりません。


(Q) チンパンジーを知ることはヒトを知ることにつながるの?

(A) そうだと考えられます
 チンパンジーとヒトは進化の過程で別々の道を歩んできました。それでも、多くの生物学的特徴を共有しています。このため、チンパンジーの理解は、ヒトの本性を知る上で、非常に多くのことを教えてくれます。


ゲノム・遺伝子ってなに?

 遺伝子が生物の設計図であり、世代を超えて伝えられていくということをお聞きになった方も多いと思います。遺伝子は塩基配列によって書かれた暗号と考えてもいいかもしれません。塩基には4種類あり、A, G, C, Tという呼称がつけられています。塩基配列は、突然変異などによって変化します。
 この遺伝子情報の総体をゲノムといいます。ヒトやチンパンジーのゲノムは解読されて、比較によって、設計図のどこがどのように違うかが明らかにされています。たとえば、ヒトとチンパンジーのゲノムは、98.7%が一致していることがわかりました(違いは1.23%)。



模式図:ヒトと他の類人猿種間の塩基配列の違いから、種間の系統関係(進化の歴史)を推定することができます。たとえば、ヒトともっとも似た配列を持つ種は、第4番目の塩基配列のみが異なるチンパンジーとボノボです。 同様の比較から、ゴリラ、オランウータン、テナガザルの順で、ヒトと系統的に近いといえます。分子進化と化石の研究から、種が分岐した年代を推定することができます。ヒトとチンパンジー・ボノボが分岐したのは、およそ700-800万年前だと推定されています。


文責 沓掛展之