Pan Africa News 25(1)の記事から

チンパンジーのアカンボウ雄による道具を使ったマスターベーション
(by 中村美知夫) オリジナルの英文記事へ

 2016 年9 月にマハレM 集団の2 歳のチンパンジー雄ピースが、オトナ雄が捨てたばかりのワッジにペニスを挿入してスラストした。ワッジとは、チンパンジーが果実を食べる際に口で果汁を絞った後に捨てる繊維滓のことである。捨てられたばかりだったため、ワッジには適度な暖かさと湿り気があったものと考えられる。ピースはその後しばらくして、発情雌と交尾をした。2 歳の雄にはまだ射精能力はないが、性器への刺激を広くマスターベーションと考えるならば、今回の例は野生チンパンジーで初の道具を用いたマスターベーションの観察ということになる。


カリンズ森林保護区 ( ウガンダ) におけるチンパンジーとオナガザル間のグルーミング4 事例
(by 蔦谷匠、有賀菜津美、松尾ほだか、橋本千絵) オリジナルの英文記事へ

 チンパンジーとほかの非ヒト霊長類種とのあいだの友好的な相互作用は、これまでにあまり報告例がない。本研究では、カリンズ森林保護区 ( ウガンダ) において観察された、チンパンジーとオナガザルのあいだのグルーミング4 事例について報告し、1 事例ではビデオ映像も提供した。4事例に共通していたのは、チンパンジーの側は群れから離れた母子やメスであること、オナガザルの側は単独オスであることだった。オナガザルの単独オスは、衛生状態の維持のためにグルーミングを受けるモチベーションがあり、攻撃的な対応交渉を受ける可能性の低い、群れから離れた母子やメスに積極的に近づいている可能性が示唆された。


預託と強奪?マハレのチンパンジーのオトナ間で行われた、野生植物の食物分配における一般的でないやりとりの事例報告
(by 松本卓也、桜木敬子) オリジナルの英文記事へ

 本研究では、マハレM 集団のチンパンジーのオトナ間で行われた、Citrus limon の果実の「(一時的な) 預かり」、およびTabernaemontana pachysiphon の果実の「強奪」に関する事例を報告した。これまでチンパンジーの食物分配の研究は、肉を分配対象としたものが多く、また、食物と物理的に接触している個体を所有者とみなす傾向があった。しかし今回の事例は、チンパンジーの食物を介したやりとりは野生の植物においてもしばしば見られ、また、接触が所有に結びつかない場合があることを示唆する。よって本研究は、チンパンジーにとっての食物の所有と分配を考える上で、食物を介したやりとりの多様性に目を向ける必要があることを提言する。




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