第11回 ブチハイエナ

五百部 裕


 ハイエナの仲間は、食肉目(ネコ目)ハイエナ科に属しています。イヌの仲間と誤解している方も多いのですが、ハイエナはアフリカ大陸で独自の進化を遂げた動物で、イヌとはまったく違ったグループに属しています。現在、ハイエナ科に属する動物は4種知られていますが、マハレに生息しているのはブチハイエナ(Crocuta crocuta)です。この種は、熱帯多雨林地帯を除いたサハラ砂漠より南のアフリカ大陸のほぼ全域に分布しています。IUCN(世界自然保護連合)のレッドリスト(絶滅のおそれのある生物のリスト)ではLeast concernに分類されており、一応絶滅の危機には瀕していないと考えられています。


ブチハイエナ(撮影 五百部裕)


 ブチハイエナの頭胴長は100〜180cm、体重は40〜90kg程度で、ハイエナの仲間では最も大型です。ハイエナの仲間はイヌの仲間に比べ頑丈な体つきをしており、脚や首が長く、腰に比べて肩の位置が高くなっているのが特徴です。他の3種のハイエナには「縞模様」が発達していますが、ブチハイエナには灰褐色を基調とした体色の上に、名前の通り黒色の「ブチ(斑点)」が見られます。一般に雌の方が雄よりも10%程度大きく、ペニスに似たクリトリスや脂肪で満たされた偽陰嚢が雌に発達しているのもこの種の特徴です。人間の笑い声に似た鳴き声を発することが知られています。

 ハイエナはスカベンジャー(死肉あさり屋)として有名です。頑丈な顎で、他の肉食獣が残していった死体の骨を砕いて食べることから、このようなイメージが定着しています。しかし、とくにブチハイエナは、自分たち自身で狩猟して餌を手に入れることの方が多いということが明らかになっています。彼らは、クランと呼ばれる母系の集団で生活しています。クランの大きさは平均数十頭ですが、ときに100頭を超えるような集団を形成することもあります。体の大きさと相まって、雄よりも雌の方が優位です。雌は4か月ほどの妊娠期間ののち、最大4頭の子どもを出産します。


ハイエナの白い糞(撮影 保坂和彦)


 A Quarter Century of Research in the Mahale Mountains: An overview (Nishida, 1990)のTable 1.1によると、ブチハイエナはチンパンジー研究がおもに行われているカソジェ地域にはいないことになっています。しかし私たちの研究を補佐してくれている現地のアシスタントと一緒に森を歩くと、「これはハイエナの糞だよ」と言って白っぽい糞(図2)を指し示すことがあります。いまだ彼らの特徴的な声をマハレで聞いたことはありませんが、人づけされたチンパンジーM集団の遊動域の中にも、ハイエナが時々訪ねてきているのかも知れません。

(いほべ ひろし 椙山女学園大学)


   


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