Julius Keyyu博士の来日

飯田 恵理子


 2012年5月15〜19日にわたり、タンザニア野生生物研究所(Tanzania Wildlife Research Institute、以下TAWIRIと略記)の研究部長である Julius Keyyu博士を日本にお招きし、5月16日に京都大学野生動物研究センター(Wildlife Research Center、以下WRCと略記)にて国際シンポジウムとワークショップ“International Symposium and Workshop for Wildlife Studies in Tanzania” を開催しました(表)。


 研究活動や保全に向けた取り組みについて議論し、TAWIRIとWRCとの協力関係を深めることが今回の訪問の目的でした。TAWIRIは、タンザニアにおける野生動物の保護管理を担っており、タンザニアでの野生動物の研究を志望する世界中の研究者に対して調査許可を与えている機関です。

 シンポジウムには、現在タンザニアで研究を行っている日本人研究者をはじめ、関係者が全国各地から集まりました。Keyyu博士からは、現在セレンゲティ国立公園で行われている「ゾウに畑を荒らされないようにするための唐辛子を利用した方法」や「保護区と実際の動物の分布の食い違い」等、保護活動と研究についての紹介が行われました。 日本人研究者からは、野生チンパンジーの生息する西部タンザニアのマハレ山塊国立公園とウガラ森林保護区で行われている研究についての発表が行われました。 マハレでは1965年以来、長期にわたる継続調査研究が行われています。今回の発表では、これまでの長年蓄積されたデータから、チンパンジーの生息数と行動圏の変化、植生の変化や哺乳動物相の変化についての発表が行われました。

 ウガラはチンパンジーの生息する環境の中で、世界で最も乾燥した地域の一つです。ウガラはマハレとは異なり、国立公園ではないため多くの地元住民が出入りしています。こうした人間活動の影響を踏まえ、チンパンジーの生息数、哺乳動物相と分布、猛禽類相の発表が行われました。質疑応答の時間には会場からも多数の発言があり、活発な議論が行われました。

 懇親会は、せっかくだからと和食レストランで開きました。様々な日本食をあまり抵抗なく食べられましたが、やはりお刺身や生卵については、どんなに安全だと説明しても受け入れてもらえませんでした。私たちはごく当たり前だと思いがちですが、実は世界中を見ても、日本人ほどいろんなものを食べる国民はいないのかもしれません。

 Keyyu博士の来日は、二度目だそうです。だから、日本食にも抵抗が少なかったのかもしれません。前回は千葉を訪問し、秋葉原にも行ったことがあるとのことでした。しかし、ずいぶん昔のことで当時、秋葉原には「電気街」「オタク」といったイメージはなかったとのことでした。そこで、私は「オタク文化」についてKeyyu博士から質問攻めにあい、最終的にはレポートを提出する、という課題までもらってしまいました。


議論をするKeyyu博士(中央)(撮影 飯田恵理子)


 日本独特の文化や風習を伝えることは、簡単ではありませんが、こうして海外から見えた方と接することで、日本についての再発見にも繋がり楽しいな、と改めて実感させて頂きました。

 また滞在中に京都市動物園と京都水族館も視察されました。動物王国であるタンザニアを母国とするKeyyu博士の目に、日本の動物園はどう映るのだろうと心配しましたが、各国の動物が一か所で見られるということで、こちらの想像に以上に楽しんで頂けたようです。特に水族館では、イルカのショーに感動し、しばらく水槽から離れなかったと伺っています。日本の良さをアピールできたようでほっとしました。

 今回開かれた国際シンポジウムとワークショップをきっかけに、今後より一層タンザニアとの協力関係を深め、現地に根付いた研究と、野生動物の保護に繋げていきたいと思います。

(いいだ えりこ 京都大学WRC)



第19号目次に戻る次の記事へ