Pan Africa News 18(1)の記事から

ギニア・ボッソウの野生チンパンジーが罠を無力化するのに棒を使用
(by 杉山幸丸,タチアナ・ハムル) オリジナルの英文記事へ

 村人が小型哺乳類を捕るために森に仕掛けた罠は、チンパンジーの子どもたちを傷つけることがある。そうした罠の一つを、ヨロという14歳のアルファ雄が棒を使って無力化させようとした。このような道具使用を詳細に観察報告したのは今回が初めてである。実際には、罠の一部が巧妙に隠されていたため、ヨロは罠の無力化に失敗したが、普段ならば手で容易に見つけ出せる針金を棒の使用によって安全に探そうとしたことは明らかであった。


リランシンバから20km離れたトゥビラでチンパンジーのベッドが発見された
(by小川秀司,吉川翠,マピンドゥジ・ムバランウェジ) オリジナルの英文記事へ

 タンザニア西部のTubila(05°01′S, 30°06′E)で2008年2月25日にチンパンジーの新しいベッドを1個発見した。20km南のLilanshimba個体群の1頭が一時的にTubilaまで来たのだと推定された。この周辺は1997–2009年にコンゴ難民による密猟や開墾で環境が悪化していた。そのためチンパンジーは熟果の乏しい雨季に食物を求めて長距離を移動したのかもしれない。あるいは他の集団へ移籍しようとしたのかもしれない。疎開林地帯のチンパンジーは長距離を移動し、それによって広大な遊動域を持つ可能性と、現在でも孤立個体群間で遺伝子の流動が起きる可能性が示唆された。


マハレのチンパンジーがアブラヤシ食を開始
(by 座馬耕一郎,中島麻衣,アブダラ・ラマザニ) オリジナルの英文記事へ

 マハレのチンパンジーがアブラヤシを食べるところは一度も観察されてこなかったが、2010年に1頭のチンパンジー(ミツエ)がアブラヤシの葉の髄を採食するのが観察された。アブラヤシは地域住民やサル類に利用されてきたが、マハレで葉の髄を食べたのはこのチンパンジーが最初である。2011年にはミツエが採食している横で2歳のメスが食べるのも観察された。アブラヤシ食がマハレの文化として定着するか、引き続き調査が必要である。


マハレM集団に移入した大勢のワカモノメスチンパンジー
(by 早川卓志,中島麻衣,中村美知夫) オリジナルの英文記事へ

 1980年以降、マハレのチンパンジーのM集団には、毎年多くて3個体のワカモノメスしか移入していない。ところが2010年には、5個体ものワカモノメスが移入した。近隣単位集団の消滅など、なんらかの異常事態が発生した可能性もある。移入初期に彼女らの間で親和的な交渉が見られたことから、互いに同じ境遇を察知したか、出自集団が同じであったかといった背景が想定される。「乳首触り」というM集団では一部の個体だけが持つ習癖を示す個体もおり、今後、彼女らがM集団の習慣にどのように順応していくのか、興味が持たれる。  


緑の回廊計画の東屋を用いた野火管理
(by森村成樹,大橋岳,Aly Gaspard Soumah,松沢哲郎) オリジナルの英文記事へ

 ギニア共和国、ボッソウ村のチンパンジーが暮らす森を、ニンバ山までつなげる距離4kmの植林計画が1997年に始まった。サバンナは日差しが強く、多くの苗木が枯れた。2007年から苗床と同じ適度な日陰のある環境で生育できる東屋方式を導入した。サバンナで苗木が育つようになったが、2009年の野火で東屋も苗木も焼けた。東屋の再建後、東屋周辺の草刈りを徹底した。2011年2月に強風に煽られた野火は緑の回廊の約1/3を焼いたが、東屋の手前で火は消えて苗木は無事だった。手入れが十分な東屋を増やすほど緑の回廊は野火に強くなることが分かった。




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