Pan Africa News 15(2)の記事から

フォンゴリに住むチンパンジーによるシママングースの捕食事例
(by S.L.ボガート、J.D.プルエ、D.カンテ) オリジナルの英文記事へ

セネガルの南東に位置するフォンゴリに住むチンパンジーが、これまでに報告されたことのない哺乳類を捕食した。獲物となったのはマングースの一種、シママングースで、調査地では頻繁に見かける種類である。2006年8月20日にシママングースが5頭で移動するところを観察した場所で、5日後に若い雌チンパンジーがシママングースを捕食しているところを確認した。フォンゴリには他の地域で主な餌食であるアカコロブスが存在せず、餌となる動物の種類が少ない。フォンゴリのチンパンジーはシママングースのような小さな哺乳類を捕食対象にしていると考えられる。



タンザニアのチンパンジーの生息密度
(by吉川翠、小川秀司、坂巻哲也、伊谷原一) オリジナルの英文記事へ

 タンザニアの国立公園外7地域のチンパンジーの生息密度を、DISTANCEという密度推定のできるコンピュータープログラムを用いて推定した。この結果を1960年代の密度報告と比較した。調査方法が異なるため直接的な比較はおこなえないが、リランシンバ、ムクユ、カロブワ、ワンシシで大きく1960年代の報告を下まわった。また1996年の調査で生息の発見されたルワジの密度も低かった。これらの調査地域では伐採や密猟がおこなわれており、これにより個体密度の減少がおきている可能性が示唆された。今後、更なる調査とGIS等の技術を用いて生息域の推定をおこなう必要がある。



東屋と挿し木:「緑の回廊プロジェクト」における新たな試み
(by大橋岳、長谷川亮、クルマ・マカン、松沢哲郎) オリジナルの英文記事へ

 チンパンジーの群れ間の移動を促進するため、緑の回廊プロジェクトとしてボッソウとニンバ山を隔てるサバンナに植林活動をおこなってきた。2007年に新たな試みを開始した。ひとつは東屋を用いてサバンナに日陰を作る方法だ。これまで、サバンナに移植すると強い日射により数日中に枯れてしまう木々も多かったが、東屋の下に移植した木々は一年後大きく生育していた。サバンナでパッチ状の植林を施す際に有効な手段になりそうだ。もうひとつは挿し木を用いる方法だ。村人の設置した柵に用いられた棒から芽が出ていることに着目し、どの種において発芽率が高いか調べたところ、現地名でゲイブナという種(Spondias cytherea)の発芽率が良好であった。この種を挿し木に利用したところ、数週間で半数以上からの新芽を確認することができた。



マハレ山塊国立公園における、Mグループのチンパンジーによる鳥類捕食について
(by藤本麻里子、島田将喜) オリジナルの英文記事へ

 マハレのMグループのチンパンジーが3種類の鳥類を捕食するのを観察した。それらの鳥類に対する捕食事例を詳細に報告する。また、様々なチンパンジー調査地から報告されている鳥類捕食事例から、捕食対象となった鳥類種や捕食者となったチンパンジーの性・年齢をまとめた。鳥類に対する捕食は、霊長類以外の小型哺乳類への狩猟、肉食と同様に単独のチンパンジーによる機会的な行動といえる。また、肉食に対する積極性が低く、周囲の個体が必ずしも肉食に参加しないことから、鳥類の捕食には同一集団内でも個体差があると考えられる。



エボ森林に生息するナイジェリアカメルーンチンパンジーの予備的調査と保護活動
(by E.E.アヴェ、B.J.モルガン) オリジナルの英文記事へ

 カメルーン南西に位置するエボ森林には、クロスリバーゴリラやナイジェリアカメルーンチンパンジーを含む11種の霊長類が生息している。ここで、チンパンジーとゴリラを対象に分布や遊動パターン等についての調査を4年間おこなった。その結果、チンパンジーはシロアリ釣りや複数の道具を組み合わせたナッツ割りをおこなっていることがわかった。だが、この森林の周囲ではブッシュミート取り引きがおこなわれており、森林伐採と狩猟の二重の危機が貴重な動物たちの生存を脅かしている。今後も引き続き調査がおこなえるよう、この森林の国立公園制定へ向けて動き出している。



ウガンダ・セムリキの半人付けチンパンジーによる糞食
(by C.L.P.ペイン、T.H.ウェブスター、K.D.ハント) オリジナルの英文記事へ

 チンパンジーの糞食行動は、飼育下で観察されることが多く、飼育環境に対する退屈やストレスがその原因とされることが多い。しかし、野生下でも観察されることが複数の調査地で報告されており、2008年5月から11月の調査で、少なくとも3頭のセムリキのチンパンジーが糞食するところを観察した。糞食の直接観察の結果と糞分析の結果から、セムリキのチンパンジーは、利用可能な栄養価の高い食物が減少する季節に、糞とともに丸ごと排出されるキョウチクトウ科の果物(Saba florida)の種子を食べている可能性が示唆された。人付けの進行とさらなるデータの蓄積が必要である。





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